あまり

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2/4/2024, 10:55:17 AM

キスで呪いが解けるのは御伽噺の定石
現実で解けるのはどうやら
悪い魔法だけではないらしい
お姫さまも王子さまもいない
世の中は蛙で溢れている
いくばくかの恐怖や 憧憬や 矜持
あるいは恋といった魔法が
健気な蛙たちを人たらしめているのだ
真実の愛とやらがあるのなら
蛙をお姫さまや王子さまに変える
魔法が使えるのかもしれない
たとえばキスのひとつで


『kiss』

2/4/2024, 2:45:54 AM

1000年より前から
人は美しいものを集めてきたのだ
それは珍しい石ころだったり
心踊るリズムであったり
空の色だったりした
時にはそれを空想に織り込んで
豪奢な反物を仕立てるように
物語を編んで
その価値を分かち合った
1000年先も人は集めているだろうか
波打ち際で貝を探すように
火星の砂漠で
月の裏側で
飽きもせず美しいものを


『1000年先も...』

8/16/2023, 12:28:48 PM

黄金色に輝くたてがみ
きよらかな銀梅花の冠
胸にともるルビーの勲章
目にはうつらない美しい飾り

『誇らしさ』

8/15/2023, 1:03:48 PM

夜の海の底を
旅せざるおえない日も大丈夫
命は発光していてあたたかいものだから
おどろおどろしい怪物のかげも
照らしてみればよく知るかたちをしているはずさ

東を目指す旅
ありがたい経典を得られるわけでもなく
苦難をともにする仲間もいない
死の淵の闇をのぞきこむような航海
けれどそれは生まれ変わりのチャンス

ほら
東の水平線にはたくさんのひかりが集まって
空を燃やしているよ

もうすぐ夜が明ける


『夜の海』

8/14/2023, 10:13:58 PM

あの夏
みんな は ぼくよりはやく
自転車にのれるようになって
遠ざかるうしろ姿をぼくは走って追いかけた

すこし先の上り坂で競争になって
みんなの背中が坂のむこうへ見えなくなったとき
一瞬 悲しくなってとまった足を
あきらめに似た気持ちで動かした
とにかく進まなければ追いつけはしない
いつだってそうだ
おいていかれることにはあんまりなれていて
待たせるのも嫌だからぼくもそうしてほしかった

坂のてっぺんを越えると
自転車からおりたきみが立っていて
「まってって、なんで言わないの?」って言った
うまく返せないぼくを自転車の後ろにのせて
君はぐんぐん坂をくだった

町なみのむこうに見える海とまっしろな入道雲へ
有名な映画の少年と宇宙人みたいに
飛べるような気がしてドキドキした
言葉にすることすらすぐにはできなくて
でもあのときほんとうは ほんとうに
うれしいと思ったんだ


『自転車に乗って』

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