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6/1/2024, 12:19:24 AM

無垢/

ー無垢とは無知であり、美と危うさをはらんでいるー



無垢でいるには、といろんな人に尋ねてみた。

インテリ君は質問を聞き終える前に
無垢という語源はね、、、と語り始めた。

インテリ気取りはこう言った。
そもそも無垢である必要はあるのかっていうことを考えてみようか。

老婆は言った。
遠い昔わたしもそんな時があったわねぇ。

サラリーマンは言った。
すいません、、、、ちょっと一本電話だけしてもいいですか?すいません!

飲み屋のママは
無垢?わたしの事じゃない!
と豪快に喉を鳴らし笑った。

ナルシストは
なに?、、、知りたい?と口の端を上げ不敵な笑みを作って見せた。

博識のおじさまはこう言った。
考えてる時点でなれまい、と
ぽつりと険しい顔で言った。


わたしは街を彷徨いながら昔のことを
思い出していた。

わたしには忘れられない光景がある

あれはなんだか空が異様に暗い日だった。
頭の中で声がいくつも重なり響く。
制御が効かなくなるほど頭が痛い。
何かを握り潰したくなるような衝動。
冷や汗をかきながら必死に戦っていた。

わたしの意識はそこで途切れたままだ。

そして今日わたしは外側に立っている。
灰色の塀を見上げ身震いし足早にあとにした。


もう何人に尋ねてまわっただろう。
唸るような答えが未だに聞けず苛立ちが募る。

「あんたは無垢だからね」

憎き母の声が響く。体中が痛む。
痛い。痛い。痛い。

頭をおさえ膝から崩れ落ちる。

「大丈夫ですか?」
女性の声がし、目線だけ上げると
手押し車にすっぽりと収まった小さな小さな
生き物と目が合った。

大丈夫です、と一応小さな声で答えた。

小さな生き物との睨み合いが続く。

「まだ3ヶ月なんですよ」と
嬉しそうに微笑んだ女性の声が響く。

わたしは無意識に手をのばす

母親は一瞬目を見開き口にぎゅっと力を入れたが
すぐ笑顔に緩み何かを話していた。

赤ん坊は私の手を握りながら微笑んでいる。
じっと私の顔を見つめニコニコと笑っている。

「あんたは無垢だからね」

ズキン、と頭に痛みが走り始める。


あぁ。
なんだか今日は空が異様に暗い日だな。