病室
この天井もそろそろ見飽きてきた。いつから入院してるんだっけ…。
窓から見える外の景色は寒い凍える冬が来るのを告げていた。
早く退院して学校に行きたい。
窓の外を眺めては、友達、大好きな彼と過ごす学校生活を夢見ていた。そんな自分の願望を、治る見込みのない病気が阻止している事に日々苦痛を感じていた。
「…もう寒くなってきたね」
病室の入り口から声が聞こえてそっちを振り向くと、私の1番愛する彼が優しい笑顔をして立っていた。
「本当。もう秋も終わって冬が来ちゃう」
「ほら、ちゃんと布団を被っておかないと風邪引いちゃうよ」
そう言って彼は肩まで布団を掛けてくれた。
「学校のみんなは元気?」
「……」
彼は少し困った顔をして、それからいつもの笑顔に戻って口を開いた。
「あぁ、元気だよ。みんなも君が早く元気になって退院する事を楽しみにしてるよ」
「そっか…。頑張って早く病気治さないとね」
治る事がないのは分かってはいるけど、それでも私は弱々しく彼に笑ってみせた。
「…きっと大丈夫。僕が君のそばにずっといるから頑張ろう」
彼は私の手を握り優しく微笑んだ。
病室の外、看護師が2人話していた。
「旦那さん、今日もいらしてるんですね」
「ええ。毎日、彼女の為に来ているのよ」
「…あの患者さんもしかして」
「そっか。あなたはまだ来たばかりだもんね。そうよ、あの患者さんはかなり前から認知症を患っていて自分の事を高校生くらいの年齢だと思い込んでいるわ」
入院している彼女は、学生なんかではなくもう年老いた老女だった。毎日来ている旦那さんは学生の時から付き合っていた人で、認知症を患った彼女に話を合わせている。
時折見せる旦那さんの少し寂しそうな表情。それでも自分の妻を愛しているから話を合わせる優しさ。
彼女はもう退院する事は叶わないが、希望を持っている彼女を旦那さんは日々励まし支えている。
「…愛の力ってすごいですね。私もあんな素敵な人とめぐり逢いたいです」
「そうね。私もそう思うわ」
年老いた老夫婦の日常は、お互いを想い合う温かい気持ちで今日も終わりを告げるのだった。
友情
男女の友情って成立すると思う?って言葉昔からあるよね。私はしないと思う。でも、同意してないとこの関係は終わってしまうから…。
「なぁ…明日遊びに行っていい?」
「…いいよ。どうせまた泊まってくんでしょー」
なんでもない風を装って私は答えた。
「だってお前と居るのが1番落ち着くし、気使わなくて疲れないから」
1番落ち着く…。それなら友達じゃなくて…。
心の中で思ってる事は言葉には出来ずに、心の奥底に沈んでいく。
「ちょっとー!私だって女の子なんだからね!」
冗談めいた口調で、ほんの少しだけの期待を込めて言う。それでも求めている答えは返ってこない。
「だって俺ら昔からの友達じゃん。女の子って感じじゃないんだよなぁ」
「まじで失礼だから、それ」
作り笑いで答えて、隠れている心の内は傷ついていく。それでも好きと言えないのは、あと1歩を踏み出せない弱い私のせい。
好きと言って、あなたが私から離れていくのが怖くてしょうがない…。
「じゃあ、明日行く時また連絡するわ」
「分かった」
明日はたくさん一緒に居れる。たとえ友達という関係だとしても、長く一緒に居られる時間がずっと続けばいいのにと思ってしまう。