鏡を見るのは嫌いだ
ニキビやそばかすが増えるたびに必死で薬を塗った
一重で野暮ったい瞳は、百均のアイプチで無理やり大きくした
くびれのない横腹を見て、何度もため息をついた
美容にいい食事や体操を必死でやって、鏡を見るたびに、何も変わらない現実を突きつけられた
「若いうちは化粧なんてしなくてもかわいいのに」
大人は化粧した綺麗な顔で平然と言う
その綺麗さを私は喉から手が出るほど欲してるのに、当の本人は「若いっていいわね」なんて言う
愛想笑いの下で、水でもかけてその化粧を剥いでやろうかと何度も思った
鏡を見るたびに私は私が嫌いになる
いつまでも捨てられないもの
お年玉のぽち袋
好きな人からもらったダサいストラップ
廃盤になった大好きだったお菓子の包み紙
私にとっては大事なもの
他人から見ればゴミ
だから、私が死んだら捨てられてしまうだろう
そこにある思い入れごと、私と一緒に燃えてこの世からなかった事になる
それって心中みたいね
夜の海は治安が悪いよ
なんて、こんな田舎じゃ当てはまらない
真っ暗で、星が東京よりもよく見えて
海には月光が反射してキラキラ光っている
ざざーん、ざざーんと波が寄せてはかえす音と、ざくざくと砂場を歩く私のサンダルの音しかこの世界にはない
昔はこの光景が当たり前だったのに、今ではすっかりネオンの方が馴染み深い
夜の海は考え事にはもってこい
だから嫌いじゃない
近い将来のこと、遠い未来のこと、自分のこと
不安なんてそこら中に石ころみたいに転がっていて、私はそれを一つ一つ拾い上げては吟味して、背負い込んでた
でもなんだか、静かで大きい海を見ていたら、石ころなんてちっぽけで
そんなことにも気付けないほどいっぱいいっぱいになって歩いてきたんだなあって感慨深く思った
自転車に乗ってどこまでもいけた
あの無限の体力と無敵感が欲しい
平凡なフードコートも、友達と一緒なら無敵に楽しかった
心の健康は一度失うと取り戻すのが難しい
いや、心だけに限らないけど
でも心は見えないから、治ってるのか自分でも分からない
心の病気を他人に理解してもらえることなんて稀
だから、理解しようとしてくれる人は大事にした方がいい