私は君と出逢ってない。
多分ずっと出逢わない。それは悲しいことで、どこにでもよくあること。出逢わないことも、そんな「君」なんてどこにもいないってことも。
かつて「出逢う」だなんて感傷的で陶酔的な言葉を思いもしないまま死んでいった、星の数ほどの人間の一人になるだけのこと。
私にとってこれほどの大きさの気持ちがそんなにも小さいもので、なのに出逢わないと寂しいなんて、そんな難しすぎる話より手の届くものを好きでいさせてくれないだろうか。

私は耳をふさいでいる。

耳を澄ますと聞こえてくるはずの、美しい調べが私の息づかいをかき消し、華やかな音色が私の鼓動を醜くするから。
光が私を陰にし、色彩が私を灰色にし、祈りが私を呪いにするから。

私は耳をふさいでいる。
私の心に足並みを揃えるために。
私が泣き止むまで待つために。
私の音を聞くために。

外側の私は内側の私を見ないふりする。
内側の私は外側の私に迷惑をかけないようにする。

絶たれた二人が暗黙裡に共有する秘密。
私達が一人であること。同じ場所で、同じ気持ちでいること。何も絶たれていないこと。それぞれが最善を尽くしていること。

あなたが優しい人間であるために私に優しくしないで。
私が満ち足りないことで得をするすべての人間が、迂闊な嘘の習慣で己の心とのつながりを失い、私と同じように優しさに飢えて苦しむようでありますように。