『風鈴の音』



　祖母が縁側に吊り下げた
　風鈴の音が好きだった

　どうして飾るか聞いたなら
　涼しくなるため、そう言った

　「ちっとも涼しくならないよ」
　祖母は笑って「うん」と言う

　この世は理屈じゃ回らない
　そういう景色が見えてくる

　チリチリチリンと鈴が鳴る
　心の熱気が冷やされる

　「痛いの痛いの飛んでゆけ」
　それでも治ったひざの傷

　今年も窓辺に吊り下げた
　風鈴の音が気持ちいい

　チリチリチリンと笑い声
　ビールをごくり⋯で祖母に言う

　「ちっとも涼しくならないよ」
　遺影はやっぱり笑ってる


　

『心だけ、逃避行』



　肉体を縛られて
　心だけ逃避行

　汚れても生きている
　浅ましく悲しいね

　壊れてく精神に
　ゆるしなど似合わない

　睡魔さえ刺してくる
　ぷくぷくと血が噴いた

　痛みさえ振り切れば
　鈍感に救われる

　頑張ったまた今日も
　ご褒美は泣く時間

　死んだなら終わるのか
　その問いも縛られる

　心だけ逃避行
　空中を漂って

　やさしさは気持ちいい
　だからこそ堕落する

　未来さえ拷問だ
　起きろって、うるさいよ

『冒険』



　種を植えたり　双葉に驚き
　親に逆らい　家を離れて
　悪いと知りつつ　ルールを破り
　異性に初めて　告白したり

　子供の頃から　繰り返してる
　生きるってすべて　冒険だった
　トラップに落下　騙され重症
　時には羽ばたき　大海原へ

　ドキドキしたい　ワクワクしたい
　知らない世界と　新たな出会い
　痛いも辛いも　屈んでジャンプ
　倍々返しで　幸せになる
　
　いつしか凪の　人生選んで
　オトナの振りして　生きているけど
　心は何にも　変わっていなくて
　冒険したくて　ウズウズ⋯してる

　ジャングル　激流　嵐に　洞窟
　大蛇に　ケモノに　おばけに　毒草
　登って　下って　流され　歩いて
　生きるって　冒険　めちゃくちゃ　冒険

　いつでも孤独で　いつかは死んで
　そういうものでも　突き進もうよ
　気遣うばかりの　優しさごっこ
　本当は本当は　大嫌いだよね

　人生って冒険　生きるって冒険
　海賊みたいに　奪って奪われ
　決闘したり　宝を見つけ
　最後は歌って　酒飲みゃサイコー

『届いて⋯⋯』



　言葉を交わせば　何でもなくて
　普通に笑って　隣にいれる

　愛する気持ちは　冷凍庫の中
　応援してると　痛気持ちいい

　届いて⋯⋯

　そういう思いも　心にあるけど
　傷つきたくない　弱虫だけど

　後悔しながら　生きてはダメかな
　守ってあげたい　願いは叶う

　届いて⋯⋯

　今夜も泣いてた　眠れず泣いた
　不幸も挫折も　安住になる

　笑ってくれたら　それだけでいい
　私がいること　それだけ、届いて⋯⋯

『あの日の景色』



　死ぬのならポックリと
　会うたびに聞かされた

　病院で管だらけ
　アザだらけの腕や足

　「延命を望みますか？」
　「はい」と言う、不孝者

　苦しんで悲しんで
　それなのに言っちまう

　「生きてくれ」1分でも
　あんたの子でいたいんだ

　あの朝の景色なら
　マッサージを止めた顔

　恨むなら化けて出よ
　酒くらい付き合うぜ