『記憶のランタン』
私の記憶のランタンは、もらい物。
「また明日」と
夕日を背景にブンブン振り回してた友の手とか。
「いい夢を」と
夜の布団の中で握ってくれた母の手とか。
「行ってこい」と
夜明け前に背中を押し出した父の手とか。
探り探りで歩む道を
やさしく照らす、私の記憶のランタンは、
そういうもので、作られておりますゆえ。
そして、いつか。
私の記憶のランタンが、
誰かの道を照らすランタンの
ほんのカケラにでもなればいい
……そう願うのは
私の傲慢なのかも、しれません。
『冬へ』
「おはよう」と
今日の通学路で聞いた、
キミの声は、白かった。
そのくせ、
自転車のハンドルを握る
キミの指先は、真っ赤だった。
キミの白と赤がまぶしすぎるから、
私の手袋を貸してあげようかしら。
こんな口実をくれた冬へ、
ちょっと感謝をしながら。
『ささやかな約束』
「今度はゆっくり、お茶しようね」
まるで定型文のように
キミと連絡するたび言い合っていた。
なかなか、実現できてはいないけど、
私はこれを、お決まりの挨拶にしたくはないの。
いつかキミと一緒に果たす、ささやかな約束であってほしいの。
『心の迷路』
どちらへ向かうべきなのか。
道の選び方さえ、わからない。
私の心は、迷ってばかり。
だけど、私は思うのだ。
本当に怖いのは、
迷い込んだことすら自覚できない迷路かも、と。
だから、私は信じてる。
迷える私の心はきっと、豊かな迷路を歩んでいると。
『愛−恋=?』
ちょっとだけ、
からかってやろうと思ったの。
数学のテストで
追試ばっかり喰らってる私に向かって
毎回ドヤるキミに、仕返ししたかったの。
そんなに数学が得意なら、
解いてみなさいよって。
問題の式を書いたノートを見たキミは、
大きな瞳を見開いたあと、
すぐに、ペンを走らせた。
考えるまでもねーよ、なんて言いながら
キミが突き返したノートには
小さな円が二つ、横にくっついて並んでた。
なんなのこれ、って
首をひねってたずねた私に、キミは短く解説した。
愛は無限だけど、恋は有限だろ。
無限から有限を引いても、無限だろ、と。
だけど、やっぱり。
私には小難しい理屈だから。
ずぅっとキミが大好きだよ、
の一言で十分なんだけどな。