いちさん(えいのーと)

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1/10/2025, 2:51:58 PM

未来への鍵



今日の体育は持久走だった。
しんどかった。
部活の筋トレも重かった。
部員の一人が遅刻したので連帯責任で
普段の倍の量になったのだ。


すごくだるい。
めんどうだけど問題集を取り出す。
まず簡単な問題を一問解く。
基礎問題だからすぐに解ける。
二問目も同じくらい簡単な問題に手をつける。
これもすぐ解ける。


少し調子が出て来たので応用問題に手をつける。
結構むずい。
何回か考え直して、計算式を書き直し、
ようやく解けた。


疲れたけどもう一問だけ挑戦する。
今度は意外と早く解けた。


余裕が出来たのでもう一問。
難易度は三問目と同じくらいで手こずった。

五問解けたので今日はおしまい。
塾の先生にもらったアドバイスが効いている。

毎日短い時間でも机に向かうこと。
やる気がない時は
すぐ終わる簡単な問題から始めること。
高い目標を作らず、この程度なら出来るという
小さい目標でこつこつやること。


自分はとろい。鈍臭い。
そんな自分が人と同じ場所を目指すなら
早く始めることだ。
受験まではまだ時間がある。
でもみんなと同じ時期に始めていては間に合わない。

もう一度問題集を見る。
これは行きたい場所に行くために必要。
未来への鍵だ。



でもまあ今日は。



最低ノルマも終わったしもう寝る!


勉強に大切なこと?

寝るんです。必ず毎日寝るんです。
きちんと熟睡しましょう。
規則正しい生活が一番大事です。


これも塾の先生のアドバイスだった。







1/9/2025, 2:06:59 PM

星のかけら





お年玉の代わり。
そう言っていとこのお兄ちゃんが
キラキラとした石が詰まった小瓶をくれた。
全部本物の宝石なんだそうだ。


え、これめちゃ高いの?


本物と聞いて思わず失礼なことを聞いてしまったが、
お兄ちゃんは怒りもせず本物だけど安いよ、
と教えてくれた。

本物なのに安いって意味がわからない。
?に頭が支配されていたらさらに解説してくれた。
天然石が高くなるためには条件が沢山あり、
条件から外れると途端に安くなるもので、
今回くれた小瓶の中身は小さ過ぎたり
加工の途中で欠けたりしたもので
価値はほぼないのだという。


だけど綺麗だろ?


価値がないと聞いて少しがっかりしたが、
綺麗なのはその通り。

なんの石か見当がつかないのでどれがどれかわかる?
と聞いてみたら、
これはオパール、こっちはクオーツ、
この青いのはトパーズで、緑はペリドットかな。
これは小さくてもギラッとしてるからジルコンかも。
詳しくは検査してみないと確定にならないけどね。

宝石は偽物も多くて、肉眼で確定させるのは難しく、
科学的な検査をしなくてはわからないのだそうだ。
これを買ったのはモールに入っている店ではなく、
普段から天然石を加工して売っている卸なので、
加工途中で出来たクズ石をまとめて
小瓶に詰めて売っているのだそうだ。

石としての価値はないけど、見てて綺麗なので
それなりに買う人がいるらしい。

宝石って全部高いのだと思っていた。
宝石だけど安いってこともあるんだ。
知らない世界が小瓶の中から見える。


これ全部長い時間をかけて地球が作ったものだよ。
僕たちは星を砕いて使ってるんだ。


そう言われてみて、宝石が綺麗で高いもの
以上の知識がないことに気がついた。
宝石ってどうやって出来るんだろ。
なんで高いんだろ。
誰が決めるんだろ。


目の前の星のかけらはキラキラと光ってる。
それが知らないことの煌めきに見えた。


帰ってから調べてみよう。


お兄ちゃんに良いものくれてありがとうと
お礼を言った。



石に興味が行き過ぎて、
宝石の卸なんてマニアックなところに
どうして行ったのかは聞けずじまいだった。









1/8/2025, 2:08:33 PM

Ring Ring …




りんりん、りんりん


鈴を鳴らしながら
尻尾をピンと立てた猫が散歩している。
自分からは尻の穴が見える。うん、健康だ。

真っ黒い姿に、チラリと赤い首輪が見えた。
首輪の鈴がりんりん鳴っている。

機嫌良さそうな姿は
見ている側もほっこりさせてくれる。

可愛いなあ。
塀はちょうど目線の高さで、
もう少しで猫に追い付く。


通り過ぎる時に顔が見たいなあ。


ちょうど横に来たとに視線を巡らせると、
猫がころりと寝転がり、遊べとばかりに
手を出して来た。


この誘惑に勝てるものか。



うりゃ!と手を出してみたら
爪のない猫パンチが返ってくる。
あ、ヒトと遊び慣れてる猫だ。
首輪もしてるし地域猫かな?でも耳は切ってないぞ?

猫パンチで遊んでやり、耳の後ろをカリカリしてやると
ゴロゴロ喉を鳴らし始める。

人間への警戒心ゼロだ。


あれ、ひょっとして。



遠くから声が聞こえた。


ねろー、ねろ。ねえろちゃん、ちちちち。



これはなんかピンと来るものがあるぞ。



よしよしと撫でながら、ガバ!と抱き抱える。

猫は何?という顔をしたが暴れない。

間違いなく人間に酷いことされたことがない猫だ。


ねえろちゃーん。


声が遠ざかっていく、やばい。

慌てて声の方へ小走りになる。
首輪の鈴がりんりんなる。


とっとっとっと
りんりんりんりん


声の方角からして多分ここの道をこう曲がって。


てってってって
りんりんりんりん


手に毛布を抱えたおばあちゃんと出くわした。
すいませーん、ひょっとして猫探してます?


ビンゴだった。



飼い主さんから盛大にお礼を言われて
バイバイをしてさよならした。
善行をしたなあと心晴々と学校に向かった。




始業式が始まっており、先生から叱られたが、
心底しまった反省してますという顔をして
体を縮こまらせながら、
あの子が迷子にならなくて良かったなあ、
昼何食べようとぼんやり考えながら、
猫の手触りを思い出していた。





1/7/2025, 1:33:05 PM

追い風





いいぞ、ツイてる。



始業式の朝、廊下を競歩する彼女が通り過ぎた。
正月明け早々、
月曜日が始業式というハズレ年だったが、
その憂鬱さを吹き飛ばす幸運に
二年参りに行って良かったなあと神様に感謝する。

10円で良いことが起こるとか、コスパ良すぎる。
自分に向かい運の追い風が吹いて来たと感じてしまう。
妄想の追い風は先に進む彼女の髪を揺らす。


綺麗に切り揃えられた長い髪が素敵だ。
サラサラツヤツヤでつい見てしまう。


遅行しそうでも廊下は走らないと言う真面目さ素敵だ。
走ってはいけない、でも歩いていていては間に合わない
そのギリギリを見極めた競歩だ。美しい。


彼女の足跡を辿るように歩く。

ストーカーではない。
目的地が同じなだけだ。


ひと足先に教室に滑り込んだ彼女を目で追うと
自分の席に座り、
後ろの級友と何やら楽しげに話している。


ああー!これが毎日見れるだけで幸せだと思い出した。
嬉しさを顔に出さずに横を通り過ぎ、
一番後ろの席に座る。


残念なことに彼女は前を向いてしまった。
顔が見たかったのに残念だ。
そう思った時、先ほどまでおしゃべりしていた子が
背中をつついて何やらささやいた。


振り向いた彼女のその顔。


照れたようなはにかんだような嬉しくてたまらない
を噛み締めてようやく平常心を保っているような顔。


ぱくぱくと動く口が何を言ったかわからないが、
多分”あけおめ”だ。


ああ、ああ。



新年からいいもの見た…!
神様ありがとう、ありがとう、ありがとうございます。



神に深く感謝をしていたら起立し損ねて浮いた。



笑うクラスメイトの中に彼女もいた。


今年もよろしくお願いします。










1/6/2025, 11:36:16 AM

君と一緒に



よし、決まった。


年末に滑り込みで美容院に行って来た。

髪はお母さんが時々使ってる
シャンプーとトリートメントを使わせてもらった。
乾かす時はお兄ちゃんのヘアドライヤーを
使わせてもらった。
さっきヘアアイロンで寝癖を解消した。

今日の私はツヤツヤサラサラヘアで決まってる。
年末年始に不摂生せず、
ちゃんと起きてちゃんと食べてちゃんと動いた。
おかげで肌のコンディションもバッチリだ。

眉毛は昨日の夜痛みを堪えて整えた。
顔剃りもした。もちろん鼻の下の産毛なんて許さない。

今朝眉毛を一本一本毛の流れに沿って書き足し、
自然なぼかしも入れた。
アイラインは自然にほんのり。
チークもほんのり。
パウダーは肌の上をくるくるさせて
毛穴という毛穴を消した。
リップはほんのり血色が良いベージュ。

ナチュラル、あくまでナチュラル。


どう?今日の私は冬においてほんのり日が差して見える
柔らかさじゃない??
前から横から後ろから。

制服に着替え、鏡の前で全体チェック。
む、アホ毛がパヤパヤしている。

慌ててヘアバームでアホ毛を押さえる。
スプレーをかけてスタイリングをナチュラルに整える。

ふう、危なかった。


ぼさぼさの髪なんて見せたくない。


だって今日は始業式!
新年初めて会うのに手抜きな姿は見せたくない。
よし!今度こそカンペキ!


鏡に決めポーズをしていたら兄の顔が映った。



「お前、今何時かわかってる?」



おげえええ。


完璧な姿に相応しくない変な声が出た。


みっともない。
冬休みの間も毎日スマホでやりとりしてた。
電話も動画付きで話してた。
でも直接は会ってない。


だから生の私は格別でしょ?をやりたかった。


明るく笑ってあけおめーと言い、
完璧な姿で、優雅に、
君と一緒に登校したかった。


なのに。


なのにどうして今
みっともなく走ることになってんの??


セットした髪はボサボサで、
ナチュラルメイクは汗でドロドロになってる。
眉毛だけはウォータープルーフなので
流れてないはずだ。

学校の予鈴がなる頃に息を切らして教室に滑り込む。


おはよ。


息を切らして席に座ると背中をちょんと突かれる。


ふっくらした、ニコニコ笑う君がいた。


「ここみちゃーん、待合せしたのにごめんなあ」
「ふふ、私もさっききたばっかやねん」


あやねちゃん、こやんから電話しよう思うたんやけど、
迷ってるうちに私もやばなってなあ。
ごめーん!て謝りながら走ってた!


「それ時間守らんかった私が悪いやん?」
「こやんのやし、はよ連絡すれば良かったねん」


おあいこ、おあいこ。
ニコニコ笑ってはいおしまい、と言う彼女の笑顔に
込み上げてくるものがある。
私はいつもにこにこ出来るここみちゃんが好きだ。

彼女に会う時は、
あやねちゃん今日もかわいいなあと言われたい。

これが友情なのか恋なのかはわからないけど、
今、世界で一番笑顔が見たくて
褒めて欲しい人は間違いなくここみちゃんだ。


新年明けましておめでとうを完璧にやりたかった。


なのに、危うく遅刻に巻き込むところだったとは!
しかも相手は寛大に許してくれる。菩薩か。


あーしくったなあ。


しょんぼりしながら先生を待つ。


つんつんと、もう一度背中ををつつかれる。


「言い忘れたけど、今日の髪綺麗やなあ」


サラサラツヤツヤで見惚れてしもうたわ。
教室入って来た時天女さんかと思うた。


こ、この天然の褒め上手め!


うまい返しをしたかったが、ようやく絞り出せたのが

『言い忘れてたけどあけおめ』


だけだった。


今年もよろしくお願いします。
















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