ありがとう、ごめんね
※土日祝はお休み
部屋の片隅で
※土日祝はお休み
逆さま
あ、やべぇ。
首元にタグがある。
Tシャツ裏表逆さまじゃん。
しかも前後ろも反対じゃん。
恥ずかしがったら余計恥ずかしい。
こういうファッションですが?キリッ!
という演技をしながら近くのコンビニで
漏れそうなんです、助けてくださいと泣きついて
トイレを貸してもらい着直した。
帰ってから悶絶したが、
それがどうして裏表逆さまなのに気付かないんだ
という点だったのか、
服を着直す程度のことで漏れそうと嘘の訴えを起こし
人としての尊厳をひとつなくした感じがしたからだったのかは自分でもわからなかった。
眠れないほど
あ、お隣さんだ。
残業を終えて駅を降りたら隣に住んでるお兄さんの後ろ姿が見えた。
背中にリュック、機械っぽい何かのキーホルダーを付けている。
よくわからないけど、特撮系の何かだろうか。
右手には何か持っている。
多分、駅にあるうどん屋のお持ち帰りだ。
時間は21時を超えている。
今から晩御飯作るのも面倒だし
うどんにするかという気持ちはとてもよくわかる。
お互いお疲れさま〜。
今日金曜だし明日休みだよね。
今日は手軽に済ませてゆっくりしようよ。
今まで挨拶以上の関係を築いたことのない相手に、
一方的に思念を送る。
このままアパートまで一定の距離置いて帰る予定だったが、
相手が行動を変えた。
コンビニに入ったのだ。
え?と思いつい自分も入ってしまった。
そんなつもりなかったのにつけ回すような行動をしてしまい、
何をしているのか自問自答してしまう。
あれだよ、自分も明日のパンとかご褒美スイーツとか
買いたいんだよ。
自分が今コンビニに入る正当な理由を見つけ出し、
明日のパン何しようかな〜という顔で
さほど離れていない距離にいる
お隣さんをチラリと見る。
箸が見えた。やはり駅内にあるうどん屋だ。
お持ち帰り用のうどん弁当だ。
これお得で美味しいよね〜。
一人頭の中で会話しながら、朝食用のパンを選ぶ。
定番としてコーンマヨパンにした。
さてスイーツはなんにしようと棚を移動すると
お隣さんがお隣に来る。
何買うんだろ。
なんとなく気になって相手のカゴを見ると、
カット野菜とおつまみ用の厚切りベーコンを入れている。
???
頭の中が?で一杯になり一瞬思考が止まる。
カット野菜はわかる。サラダにするのだろう。
でもうどんにベーコン…。
謎だ。
一緒に食べるわけじゃないかもしれないじゃん。
ビールも買ってうどん食べた後に晩酌とかさあ。
あ、レジに行ってしまう。
お隣さんはカット野菜とベーコンだけ買っていた。
変な組み合わせだ。
お隣さんの買い物が気になって、スイーツを買うのを忘れてしまった。
風呂は良い。心の洗濯だ。
うどんにベーコンというモヤモヤを抱えながら
帰宅したことも忘れ、すうぇっとにきがえる。
夕飯は済ませてきたが明日は休みだ。
買い置きのビールとジャーキー袋を開ける。
プシュっと音を鳴らし缶を開け、
きゅっと半分くらい飲み干す。
あー美味い。今週も良く頑張った。
自分を労っていると、
お隣から驚きの音が聞こえてきた。
じゅーという何かを炒める音だ。
え?今日はうどんじゃないの?
え?疲れてるからテイクアウトしたんじゃないの?
え?物足りないから一品作るの?
うどんと天ぷらに炒め物プラスワンって重くない??
固まっていると、醤油をかけまわす良い匂いがしてきた。
料理ができたらしい。
コンロの火を消す音がして、少し後から
ずるずるっと何かを啜る音が聞こえてきた。
あー!と気がついた。
これ焼きうどんだ!
そっか!焼きうどんの具にするためにカット野菜とベーコン買ったんだ!
へー、と、感動してしまう。
自分はうどんを買ったらそのまま食べる。
バックを開けて、天ぷら乗せて、
つゆをかけまわしていただきますだ。
カット野菜はサラダとしてしか食べたことないし、
つまみはつまみとして食べる。
だってそれが正しいんだから。
お店でも推奨してる、一番美味しい食べ方だ。
だけど。
こういうアレンジもありなんだなあ…。
自分にはない発想だったので驚いた。
ビールを一口一口飲み進める。
合間にジャーキーを齧る。
お隣さんの生活音はビールを飲み終わる頃には
何かを洗う音に変わり、何かの解説動画の音が
聞こえはじめていた。
やることもないし、今日はもう寝るか。
ビール缶を片付け、余ったジャーキーをジップロックに入れる。
ベットに寝転がり、首元に毛布を被った時ふと気がついた。
ねえ!天ぷら食べてないよね??
どうすんの?明日天ぷらだけで食べるの?
でも時間経つと天ぷらってべしょっとしない??
明日食べたら美味しくないよ!
お店の人不味くなった天ぷら食べて欲しくないよ?悲しいよ??
気になって気になって。
夜も眠れないほどだった。
翌日の昼頃に、天ぷらを卵とじにするリメイク方法があると知った。
今度やってみようと心に決めた。
夢と現実
みなさん、今日も集まってくださりありがとうございました!
また来てくださいね。
バイバイ!にぱ〜。
しばらく同じ顔で停止した後、
ふうーとため息をつき表情がなくなる。
お、事故か?
カメラが止まるまで画面を眺めていた視聴者が
コメントを付けず様子を見始める。
ここから愚痴モードに走ってくれれば
炎上チャンスだ。
普段我々から金と時間を奪うVチューバーが
真実の姿を晒してくれれば、お仕置きの愉悦を楽しめる。
さあ晒せ、お前の本性を。
俺は人間の真実の姿が見たいんだ。
じっとりと眺めている視聴者は数名。
アカウントを確認したらどいつもこいつも見覚えのある
アイコンをしてやがる。
廃課金勢だ。
これは、面白い。
悪趣味な笑いが込み上げて来る。
録画できるよう設定をいじりながら、
次の発言を舐めるように待つ。
あー、終わった。今日も緊張したわ〜。
うー、肩凝る。ストレッチストレッチ。
無の顔からうええという顔になり、
親父のような唸り声を上げながら
肩を抑え首を回し始める。
みんな楽しんでくれたかなあ。
あーもう、色々メモってんのに、
喋ってる時パーになるんだから。ほんとポンコツ。
このネタ話忘れたし。
あーもう。もっとすごくなりたい!
今日もたくさんスパチャ貰ったんだから、
払った分楽しんで貰わないと!
あーなんで計画通りにいかないのかなー。
醜い愚痴が始まるかと思えば一人反省会が始まった。
今日の配信の予定はこれだったのに
ここで進行をミスった。
あそこで噛んだ。
発音悪くて恥ずかしかった、ボイトレ強化だ、
そこにいたのは期待した醜い本性を表した女ではなく
普通の女の子だった。
え、なんか良い子だし?
いや、元々そんなに醜いもの見たかったわけじゃねえし?
裏垢で回して炎上プランとか練ってねえし?
こういう放送事故映像もお宝だし??
言い訳が頭にぐるぐる沸いている時、
一行コメントが流れた。
“カメラ切り忘れてますよ”
え?やば。
そこで配信は途切れた。
醜い姿が見れなかった舌打ち感と、
それを期待した自分への恥と、
コメントを流したやつグッジョブな気持ちと、
最後にいいもん見れたぜという満足感が複雑に混じり合い、
なんだかいい気分だった。
次の配信ではスパチャを弾もう。
そう決意してソシャゲに切り替え、
ログインボーナスを貰うことにした。
ククク、餌は撒いた…。計画通り。
カメラのスイッチを切った配信者はニヤリと笑う。
夢を売る商売でリアル見せるほど素人じゃないんだわ。
さて、明日の配信はいくら稼げるかな。
明日の皮算用をしながら
配信機器を片付けて、ナイトルーチンに入る。
肩が凝っているのは嘘ではないのだ。