12/7/2024, 12:29:25 PM
部屋の片隅に、あなたが居た。
繰り返す日常の中、突然のことだった。
「どこから来たの?」と聞いても何も答えない。
とにかくご飯を食べさせて、お風呂に入れると、あなたは「ありがとう」と言うように「ニャー」と鳴いた。
それからの毎日は、一人暮らしの私に家族が増えて大変だったけど、なぜか、すごく楽しかった。
楽しいなんて思うのはいつぶりだろう。
そう思いながら、サラサラな毛並みを撫でる。
艶のある真っ黒なあなたは、鏡になりそうなほど綺麗だった。その鏡に私が映ると汚れてしまいそうで、目を逸らす。
あなたのご飯を作っているとき、玄関の呼び鈴が鳴り、私は急いでドアを開ける。見知らぬ女性が立っていた。
「黒色の猫を知りませんか?」
私はあなたの飼い主を見つけた。あなたの元へ女性を連れていこうとしてやめたのは、部屋の片隅に居たから。
「ごめんなさい、私が飼っているのは白黒の猫でした」
そう嘘をついて怪訝な顔をする女性に帰ってもらうと、あなたはまた「ありがとう」と言うように「ニャー」と鳴いた。
怯えていた。あの女性に。
猫の気持ちなんて、わからない。でもなぜか、あの日と同じ、怯えた表情をしていたから。
でも、それだけじゃない。
私はあなたに居て欲しかった。あなたが偶然あの日に私のところへ現れたとは思えなかった。
私はあの日死のうとしていた。
ロープも買った。準備はできていたのに、あなたが邪魔するように現れた。
あなたは私を助けてくれた。猫の気持ちなんてわからない。でも絶対に、絶対にそうだと思う。
_さっきから連続する呼び鈴がうるさい。
次は私があなたを助け、そして守る番だと、世界でいちばん大切な存在を部屋の片隅に隠して、
ドアを開けた___。