黒いビジネススーツで営業。
今日も頑張った、と自分を褒める気にもならず、横断歩道の信号待ちで空を見上げた。
月からの風を感じ、目を閉じる。
月だけが私を包み込んでくれる、許してくれる。
毎日そう思いながら夜空を見上げる。
「またか。」
よく知っている男の声が後ろから聞こえた。
「またよ。」
私は答えた。
「俺じゃダメなのか。」
私は、その言葉を無視して歩き出した。
彼がダメなのではない、私がダメなのだ。
仕事を変える勇気も、心に素直に生きる強さもない。
「いい加減、俺と一緒に進む気にはならないのか。」
私はあなたと太陽の日差しのもとを、堂々と歩く資格はない。
私は彼の手を振りほどいた。そして、手を強く握りしめて、歩いた。
家にたどり着いた時、握りしめた手から、血が出ていた。
手の痛みはなかったが、こころが痛くて、涙が流れた。
この世の中に、心に忠実に生きている人はどれくらいいるのだろう。
お題『日差し』
君はいつも教室の隅にいた。
卒業式の後、謝恩会会場で君を探した。その時も壁沿いを先に探した。
「どったの?誰探してる?」
友人に聞かれて、君の名前を告げると、謝恩会は欠席だと言われ、がっかりしたことを覚えている。
だから、君に最後にあった日、いや、君を最後に目撃した日は高校の卒業式だ。
あれから10年が過ぎた。
君は元気なのだろうか。
朝食を食べながら、君のことを思い出していた自分が不思議だった。
「本日からこちらでお世話になります。よろしくお願いします」
目の前にいるのは君のような、君じゃないような。
なんだか、不思議な気分だ。
お題『君と最後に会った日』
「どーしてこうなったわけ?」
尋ねられた複数の男女が口々に理由を言ってくるが、何も信憑性のない話しだ。ここにいる人間全員酔っ払いか。
俺がくる前に、全員出来上がるとはヒドイやつらだ。
しかし、たかだか2時間でこの惨状とは。一体どんだけ飲んだんだよ。
「あー遅かったね。おっつかれー。今日はみんなでこれから10年後、20年後どうしたいか話してたんだよ。」
「俺にはここにいる全員が酒に飲まれる未来しか見当たらないが」
俺は一体、この後どこまで介抱したらイイんだろう?
お題『未来』
兎にも角にも暑い。
夏は終わったはずなのに、猛烈に暑い。
いつになったら、
「過ごしやすい!お昼休みの公園ランチ」
が戻ってくるのか、誰か教えて欲しい。
過ごしにくいからと言って、社内で昼休みをするという選択肢はわたしにはない。
昼休みなのに、電話応対、パワハラ取締役の対応、セクハラ上司との会話、そんな時間はまったく休憩じゃない。
昼休みは誰にも邪魔されず、ゆっくりごはんをたべて、ほっこり好きな本を読む時間だ。
誰にもこの幸せな時間を奪う権利はないはずだ。
季節よ。もう少しマシな気候にしてください。
そんなくだらないことを考えながら、手元の本を開いた。
お題『好きな本』
暑い。
兎にも角にも暑い。
まだ、6月なのに夏ですか?
それか、なにかの罰ゲームですか?
ったく、太陽さんよ。そんなにジリジリ、ギラギラ照らさなくていいから、ちょっとは雲に隠れたりしてくれないかな。
私は右手を軽く目の前にかざして空を見上げた。
再び歩き出そうとしたところ、左手に自分の体温と違う何かを感じた。
「よお」
聞き覚えのある声がした方に目を向けて、すぐに手を振り払った。
「変質者みたいな行動は控えましょう」
だれが変質者だと言いつつ、また手を重ねてくる。
「あじさいみたいな人に騙される私じゃないわよ」
「それ前も言ってたな、意味わからんけど」
私はわからなくてもいいわと言いつつ、手をふりほどいた。
あじさい、別名で七変化、花言葉は移り気。
見つけた女でコロコロ変わる、取っ替え引っ替え男に転がされるのはまっぴらよ。
お題『あじさい』