こんな夢を見た
昔、職場の先輩だった女性に、
「〇〇ちゃんの結婚式の夢を見たよ」と言われたことがある。
ぎょっとした。
「ど、どういう夢だったんですか!?」
彼女と私は特に親しかったわけでもない。その時の私にそんな相手も予定もない。なのになぜ?
私が驚いて尋ねても、彼女は笑うだけで相手も内容も教えてくれなかった。何かの予知夢の類じゃないだろうなと、しばらくは気味が悪かった。
一体どんな夢を見たんだろう。彼女は私のことをどう思っていたんだろう。かなりインパクトのある言葉だった。あれから随分経つけれど、今でも時折思い出す。
#155
タイムマシーン
「タイムマシーンがあったらどうする?」
子供みたいにあなたは笑う。
「そうだね、やっぱり未来が見たいかな」
地球はまだ青いかとか、
誰でも月旅行ができるかとか、
太陽系の外に出られるかとか、
光の速さを超えて時を飛ぶ、まだ見ぬ未来を二人で想像した。
でもね、
もし目の前に真新しいタイムマシーンが現れたとしても、あなたを置いて乗ったりしないよ。
どんな素敵な未来でも、
あなたがいないとつまらない。
グラスのスパークリングワインの泡が光を弾く。
こんなひとときには敵わないもの。
#154
特別な夜
初めからわかっていれば、
ありふれた夜になどしなかっただろう。
あの夜を僕は。
失くしてから気づいて、
どれだけ悔やんでももう帰っては来ない。
あの特別な夜は。
あれから時は流れたけど、消えないんだ。
君の笑顔が瞼の裏に、
君の声が耳の底に、今も。
ずっと、いつまでも。
#153
海の底
誰も知らないところへ行きたい。
例えば海の底はどうだろう。
深く深く沈んでいったら、
真っ暗できっと静かだろう。
何も見えなくていい。
目も耳も無くなっても、
あなたに触れていられたらいい。
#152
君に会いたくて
百夜をば一夜にちぢめ
一夜をば
このたまゆらにちぢめたる恋
―吉井勇―
祇園の花街文化を愛した歌人、吉井勇の短歌です。
思うように会えない恋をこんなに鮮やかに詠んだ歌があるでしょうか。
初めて知った時、息を呑んで、何度も何度も読み返しました。あれから何十年経っても胸に刺さっています。
震えるほど君に会いたくて、駆け出す夜。
#151