大空
青い空を見上げてあなたは言った。
「空ってさ、地上からどのくらい先まで見えてるか知ってる?」
「えっ、知らない」
「大体20km先まで見えてるんだって。ほら、あれ見える?」
伸ばした人差し指の先に、白く光るジェット機が空高く飛んでいく。
「ジェット機は高度約1万メートルの上空を飛ぶから、それよりかなり遠くまで見えてるんだ。――なんかすごいよね」
大空を見上げると、消えてしまった人のそんな言葉を思い出す。胸の痛みは消えないのに、なぜか救われている。
#126
ベルの音
「乾杯!」
「あ〜っ、ビール美味しっ!」
仕事帰りの女子二人から明るい声が上がった。
「青空に色とりどりのフラワーシャワーが舞い、ウエディング・ベルの音が鳴り響く。そして二人はずっと幸せに暮らしました。
そんな夢見たこともあったっけ……」
「まあ、女のコなら一回はね」
「人生、そっからが本番なんだけどねえ」
「そうですね。先輩見てて思いました。では改めて、ご結婚おめでとうございます」
「二回目だけど。田舎の親にも今度は真剣に選んだの!?ってしつこく言われたよ。前もいい加減じゃなかったんだけどね」
「心配してるんですよ、大変だったし。先輩かなり落ち込んでたから」
「見る目なかった……」
「まあ、いいじゃないですか、もう終わったことですよ。人生いろいろですもん」
「あんたの方が先輩みたいだね」
「あはは。そういえば友だちの妹さんがね、同じ人と二回結婚したんです」
「へえ? それで今はどうしてんの?」
「今はとても上手くいってるみたいって友だちは言ってました。
久々に家族で顔合わせた時、お義姉さんたちが優しいって再婚した旦那さんは泣いてたそうです」
「あはは、でも良かったねえ」
「ホントに。間違ったらやり直す、そういうのできるの偉いなと思って。自分の好きにしたらいいんですよね。他人の目は関係ないっ」
ドンっと後輩のジョッキが勢いよくテーブルに置かれた。
「ち、ちょっと飲みすぎじゃないの?」
「だから私、先輩がまた新しくトライするの嬉しいです! ウエディング・ベルをガンガン鳴らしてあげたいです!」
「あ、ありがと。気持ちだけ受け取っとくわ」
「おめでとうございます!」
#125
寂しさ
寂しさなんて、
大人になれば感じなくなると思ってた。
だから早く大人になりたかった。
でも違った。
慣れたふりをするだけだったんだね。
#124
冬は一緒に
「冬は一緒に居たいな、……温かいもん」
「冬だけ?」
「……ずっと」
ぎゅうっと私の手を握ってくれたから、
鼻の奥がつんとした。
嬉しくて、泣きたくなる。
#123
とりとめのない話
近所の人の噂。
昔、働いていた時の話。
最近の事件。
餌をやっている猫の話。
とりとめのない話が続いていく。
それ前も、何ならその前も聞いたけど、
とか、
こっちの話、全く聞いてないよね、
とか、
こっそりため息をついて、
でも時々ならいいかなと思う。
同じ空間と時間を共有する贅沢。
コロナの時はできなかったこと。
話の内容より、話す相手がいることが大事なんだね。
それがとても嬉しいのだとよく分かるから。
#122