まとわりつくような重たい空気に、破裂寸前まで死臭
が詰め込まれている。
いまだけは、ハレーションで膚が焼かれるのを知っている。知っていた。知っている。
ゴミ捨て場に投げられたビニル袋の中身に小蠅が集ると、季節が玉座を奪い合う。
花火かき氷ひまわり海スイカ入道雲蚊取り線香風鈴浴衣なんかの死体。
夏。夏依りの夏。
/夏の匂い
湯舟に耳まで沈むことそれとカーテンはむかし同じだったのだ
/カーテン
(思えば去年も、同じ題で字余りの歌を投稿しました)
特別白くも細くもない、ごく普通の少女らしい指が花弁をちぎった。
それを見ている。
「好き、好き、好き、好き、好き……」
しゃがみこんだその人の肩を飛ぶ虫がいる。お眼鏡に叶わなかった、——あるいは、まぬかれた——花々を足にして、私はそれを見ている。
学校指定のハイソックスを折って履くのが流行りだったから、そうしていた。剥き出しのふくらはぎが空気を浴びる感覚が、いつになく不快だ。この分では、邪魔だと放ったスクールバッグで虫を潰してしまったかもしれない。
「好きしかないんだね」
「好きも嫌いも花なんかに決められるわけないでしょ」
そんなこと信じてたんだ、意外とかわいいね。
にこりともせずに言う。花占いなんてリリカルな手遊びをする人が。
「——分からないかもしれないけれど」
「うん?」
「例えば梱包に使われる緩衝材をプチプチ潰すと気持ちいいでしょう」
「ううん……」
「ふふ、やっぱり分からないよね。あなたには前提条件が通じない」
その人は禿げあがってしまった花茎を恭しく地面に置いて、私に手を伸ばす。普通を逸脱しない程度に冷えた指先を引っ掛けて立ち上がったその顔が、普通を逸脱する程度には近くにある。
「そこが好きよ」
「あなたみたいに、あなたの仲間になりたくて、ちょっぴり変な行動を取っちゃうくらい好き」
「どう話せばあなたが分かるか、分からないところが好き」
「……花びらの枚数は!」
淡々と囁かれる告白に耐えられなくて、大きな声が出た。目をぱちくりさせる人の指をぎこちなくほどく。
「花びらの枚数は決まってる……から。花占いに意味なんて」
ない。
息をつくように吐き出すと、その人はにっこり微笑んだ。
「そうよ、花占いなんて意味無いし、無駄に植物の命を弄んでるだけ。——ねえ、そんなつまらない照れ隠し、二度としないでね。普通のあなたは嫌いなの」
好きと連呼した時よりもよっぽど甘い声で嫌いと囁かれて、思考だけがから回る。棒立ちになった私の脇をさっさとすり抜けて、その人はプリーツスカートの土埃をはたいている。
ああ、けれど。やはり花占いなど眉唾だ。好きしかない花占いに縛られるものなど、一人もいない。
/好き、嫌い、
赤赤赤い意図は終わり
空っぽのボビンを踏んづける
血染めの運命って言わないで どうか陳腐な嘘はやめて
、あなたの唇を守って
人工機関を正しく断て!
ピアノ線であなたを私を殺せる夜が
湿潤の時を迎える
手繰って織ったら
Iser の囁きが其処此処に聴こえた
これはあなたの魔物だ
/糸
吹き上がった生活は虚無
嘘をまぶした朝食をシンクに棄てる 身体の中まで侵されるのが怖いから
仮に内蔵取り出して丸洗いしたとして それで生まれ変わるなんて楽観的だね
自己憐憫を塗ってトーストを待つ
朝起きて歯磨きするタイミングっていつがいい?
ほこりを被って寝たって主人公にはなれないな
人のくせして真似て擬態しないと生きられないこと
朝の光がいつも怖い
指が指には
/届かないのに