はなればなれ
十日後、入院する
二十二日間、病院生活だ
コロナ禍前の時代と違って随分病院のシステムが変わったようだ。
全身麻酔で付き添いが必要だったのは何年前までのことだろう。
入院しおりを渡されて
医療事務の方ではなく、看護師さんから
最低限の説明だけを
テンポよく、愛想よく、
事務的に行われる。
いくつか質問してみた。
嘘はつかないが、ほんとのことも言わない。
入院中はきっとまわりはソレばかりだろう。
何か起こってから責任転嫁のリレーだったらいやだな…
みんな生きるためで、仕事だ、仕方がないが
やるせない
みんな仕事をすれば家族と離れ離れだし
わたしは入院したら家族と離れ離れだ
入院を送り出してくれる家族は何を思ってるだろう
せいせいしたとか?
面倒だなぁとか?
目の前の入院準備でごった返した部屋を見ながら
これからの事を考えるとうんざりだ。
大好きな猫とも離れ離れ、抱きついてみたら
溶けるように脱出された…
君がいないと私は生きていけないのに
ひどい…
しばらく君を抱っこできなくなるのに
子猫。
すごく可愛い
これに尽きる。
やたらめったら猫の写真を見せつけてきて
うちのコ可愛いアピールをする輩よ
猫好き同士仲良くしようじゃないか。
うちのほうが可愛いんだけどな
hahahahahahahaha
先に写真見せてきたんだから、ソレを言う権限はある
いつまでも見てられる
猫のこと書かせないでほしい
夜が明ける
秋風。
いきなり何のことやらと、
調べてしまった。
秋口に吹く涼しい風だとか
日本海軍の駆逐艦の名前だとか
後ろに、送るという動詞をつけたら
女性が男性に媚を売る色目だとか
後ろに月をつけたら
8月の異名だとか。
秋が五行説の金にあたるので 金風 とか。
世間に出回ってる言葉を巡ると
なかなか乙なこと言ってくれたりしてくる。
個人の意見では 麦が実り、世界を金色に染めてくれたり
赤色に染めてくれたり
いつの間にやら雪が混じる白い風が強く吹く
着る服に悩む時期だと思いながら
いつだって着る服には悩んでる
風が吹くなら
いつだって膝丈くらいの長い裾を風に任せて
颯爽と歩きたいのだ。
いや、かっこいいだろ?
”また会いましょう”
もう、会うこともないだろうね。
これが物語の最後なら
暗に別れを告げられているのは、誰だってわかる。
相手のそれは 皮肉なのか、強がりなのか。
どんな輩でも
つらつらと長い付き合いになってしまった相手だ。
妙な、情が滲む。
逆にソレが
物語の始まりなら、
初対面で得体のしれない相手だ。
皮肉か、挨拶なのか。
開始の合図。
これから、長く付き合いになる。
分岐。
スリル。
基本、傍から見たら危ないこと。
しかし当事者には、ゲームのようなもの。
要するに、どこか、安全圏、保険みたいなもの、
あるいは
絶対に自分は大丈夫という自信が確証なしでも存在する。
血圧が上昇して、心拍数が上がって、呼吸も浅くなる。
終わりの想像や、失敗の先の覚悟は
全部、透明。
覚悟の先の枝分かれが、細かすぎて
解像度を知らないうちに下げてる。
スリルって言葉を使う時点で、
多分。
というか、気取った言い方したけど
実際、そうなったら、多分病気だ。
リスクの描写に解像度を下げてるのは、もはや病気だ。
スリルとか求める時点で、問題だ。