下弦

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10/27/2024, 10:55:34 AM

シェルフから皿を取り出し、彼女はにこりと笑う。
午後三時、いつもの御茶の時間。
ケーキスタンドにお菓子を並べ、いつものように椅子に座る。

長女の席にはダージリンのストレート。

次女の席にはアールグレイのミルク入り。

三女の席にはニルギリのレモン付き。

四女の席にはローズヒップティー。

それぞれ好きなお菓子を目の前の皿に置く。

ショートケーキ、マカロン、フルーツゼリー、スコーン。

広い広い食卓、紅茶の香りが充満する中、私はアッサムをこくりと一口、チョコレートをお供に味わった。
四女は静かにスコーンをジャムと食べ、上品に紅茶を飲んだ。

広い広い食卓、紅茶の香りが充満する中、
私と四女は静かに上の三姉妹の帰りを待っている。

もう三人帰らぬ人となったことを知りながら。

10/26/2024, 10:29:21 AM

僕らだけのトクベツなおまじない

ひみつの合言葉を唱えましょう

唱えあったらくすくす笑って、

楽しい楽しいふたりきりの時間

「先生、愛を論じましょう」

「子どもにはまだ分かりっこないさ」

「嘘つき、そうじゃないこと先生が一番知ってる癖に」

僕らだけの秘密の愛言葉、

夕方の教室、ふたりでオレンジ色に染まる

ああほら月が出てきた

「月が綺麗ですね」

貴方の為なら死んでもいいわ

10/25/2024, 11:38:45 AM

初めて出会ったのは、夕暮れの境内の中。
かん高い声を上げて元気いっぱいに走り回る姿は、夕焼けの太陽のようにきらきらしていた。
そのきらきらは、僕の心を掴んで焼き焦がした。
一生消えない火傷痕を胸に、僕は思った。
あの子と“おともだち”になりたいと。

話しかけたら、君はにぱっと笑って僕を遊びの輪に入れてくれた。
毎日が楽しくて、午後が1日の中で一番大好きになった。
そしてあの子が家に帰ってしまう日暮れが1日の中で一番大嫌いになった。

あの子はだんだん大きくなって、かん高い声も少しずつ低くなっていった。
背もずいぶん伸びて、僕はもうあの子を見上げないと行けなくなった。
境内に来ることももう無くなって、僕はまた独りになった。
詰め襟の制服が、恨めしくなってしまった。

そしてあの子は、久しぶりに境内に来てくれた。
独り立ちするから、この街にはもう来ないのだそうだ。
また久しぶりに見たあの子は、もう立派な大人になってた。

人の理を外れて此方へと連れてくることはしたくなかった。
僕はそのままの君が一番大好きだから。
幸い、あの子と違って僕はずうっと子供のままだ。
だから、僕は待つことにした。
気が変わって、この土地へ戻ってくることを。
そして、また会えることを。

何年、何十年、かかってもいいから、

また、ここで遊ぼうね。


僕の“おともだち”へ。

10/24/2024, 10:52:56 AM

♪最終便、君は乗る、僕を置いてって……

なんて曲は、いつに聴いたんだっけか。
聴いた時のことはもうすっかり遥か彼方の向こうだし、その時は歌詞の意味なんて分かっちゃいなかったけど。

まさか僕は置いていく側になるなんてなあ。

遠い遠い昔、僕とあの子は約束をした。
『ずっとずっと、一緒に居よう』と。
その時のあの子の笑顔は生涯忘れないだろう。
指切りして、一生を誓った。
それがそんなに重いものだなんてその頃は到底思わなかった。

どうしてかって。

あの子は人では無かったから。
僕よりずっとずっと永い時を生きるモノだったから。


事故に遭った。
息も絶え絶え、サイレンの音はするけど多分僕はもう駄目だ。
あの子のすすり泣く声がそばで聞こえる。

約束、守れなかったなあ。


お題:行かないで

10/23/2024, 11:29:40 AM

泣きたかった。
でも泣けなかった。
皆がこの青い空を喜ぶから。
「晴れたらいいな」って、皆が願ってたから。

あの人は雨が好きだった。
雨の匂いが好きだった。
窓に雨粒が当たる音が好きだった。
透明な水たまりが好きだった。
貴方と話せる雨の日が私も好きだった。

「ふたりで一緒に卒業式に出よう」って約束した。
卒業式が雨だったら、「頑張って外に出るよ」って言ってくれた。
大好きな雨と一緒なら、この身体にも力が入る気がするって。
動かない足も、動く気がするんだって。


卒業式は晴れだった。
桜の降る、見たことのない程綺麗な景色があった。


あの人の胸の音は動かなくなったと、電話があった。


どこまでも続く青い空。
きっと青い空に、君は吸い込まれてしまったんだ。


お題:どこまでも続く青い空

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