シェルフから皿を取り出し、彼女はにこりと笑う。
午後三時、いつもの御茶の時間。
ケーキスタンドにお菓子を並べ、いつものように椅子に座る。
長女の席にはダージリンのストレート。
次女の席にはアールグレイのミルク入り。
三女の席にはニルギリのレモン付き。
四女の席にはローズヒップティー。
それぞれ好きなお菓子を目の前の皿に置く。
ショートケーキ、マカロン、フルーツゼリー、スコーン。
広い広い食卓、紅茶の香りが充満する中、私はアッサムをこくりと一口、チョコレートをお供に味わった。
四女は静かにスコーンをジャムと食べ、上品に紅茶を飲んだ。
広い広い食卓、紅茶の香りが充満する中、
私と四女は静かに上の三姉妹の帰りを待っている。
もう三人帰らぬ人となったことを知りながら。
僕らだけのトクベツなおまじない
ひみつの合言葉を唱えましょう
唱えあったらくすくす笑って、
楽しい楽しいふたりきりの時間
「先生、愛を論じましょう」
「子どもにはまだ分かりっこないさ」
「嘘つき、そうじゃないこと先生が一番知ってる癖に」
僕らだけの秘密の愛言葉、
夕方の教室、ふたりでオレンジ色に染まる
ああほら月が出てきた
「月が綺麗ですね」
貴方の為なら死んでもいいわ
初めて出会ったのは、夕暮れの境内の中。
かん高い声を上げて元気いっぱいに走り回る姿は、夕焼けの太陽のようにきらきらしていた。
そのきらきらは、僕の心を掴んで焼き焦がした。
一生消えない火傷痕を胸に、僕は思った。
あの子と“おともだち”になりたいと。
話しかけたら、君はにぱっと笑って僕を遊びの輪に入れてくれた。
毎日が楽しくて、午後が1日の中で一番大好きになった。
そしてあの子が家に帰ってしまう日暮れが1日の中で一番大嫌いになった。
あの子はだんだん大きくなって、かん高い声も少しずつ低くなっていった。
背もずいぶん伸びて、僕はもうあの子を見上げないと行けなくなった。
境内に来ることももう無くなって、僕はまた独りになった。
詰め襟の制服が、恨めしくなってしまった。
そしてあの子は、久しぶりに境内に来てくれた。
独り立ちするから、この街にはもう来ないのだそうだ。
また久しぶりに見たあの子は、もう立派な大人になってた。
人の理を外れて此方へと連れてくることはしたくなかった。
僕はそのままの君が一番大好きだから。
幸い、あの子と違って僕はずうっと子供のままだ。
だから、僕は待つことにした。
気が変わって、この土地へ戻ってくることを。
そして、また会えることを。
何年、何十年、かかってもいいから、
また、ここで遊ぼうね。
僕の“おともだち”へ。
♪最終便、君は乗る、僕を置いてって……
なんて曲は、いつに聴いたんだっけか。
聴いた時のことはもうすっかり遥か彼方の向こうだし、その時は歌詞の意味なんて分かっちゃいなかったけど。
まさか僕は置いていく側になるなんてなあ。
遠い遠い昔、僕とあの子は約束をした。
『ずっとずっと、一緒に居よう』と。
その時のあの子の笑顔は生涯忘れないだろう。
指切りして、一生を誓った。
それがそんなに重いものだなんてその頃は到底思わなかった。
どうしてかって。
あの子は人では無かったから。
僕よりずっとずっと永い時を生きるモノだったから。
事故に遭った。
息も絶え絶え、サイレンの音はするけど多分僕はもう駄目だ。
あの子のすすり泣く声がそばで聞こえる。
約束、守れなかったなあ。
お題:行かないで
泣きたかった。
でも泣けなかった。
皆がこの青い空を喜ぶから。
「晴れたらいいな」って、皆が願ってたから。
あの人は雨が好きだった。
雨の匂いが好きだった。
窓に雨粒が当たる音が好きだった。
透明な水たまりが好きだった。
貴方と話せる雨の日が私も好きだった。
「ふたりで一緒に卒業式に出よう」って約束した。
卒業式が雨だったら、「頑張って外に出るよ」って言ってくれた。
大好きな雨と一緒なら、この身体にも力が入る気がするって。
動かない足も、動く気がするんだって。
卒業式は晴れだった。
桜の降る、見たことのない程綺麗な景色があった。
あの人の胸の音は動かなくなったと、電話があった。
どこまでも続く青い空。
きっと青い空に、君は吸い込まれてしまったんだ。
お題:どこまでも続く青い空