お題 ずっとこのまま
お題 寒さが身に染みて
生きかえった。そう思う。寒い夜にはホットワインがいい。
瞬時に身体が温まる。寒さで縮こまっていた身体が緩む。アルコールで頭もふわっと緩む。そして気持ちも緩む。
こんなワインの飲み方を見つけた人は凄いと思う。心から美味しいと感じる。
明日もまた寒いと天気予報士が言う。だからまた作って飲もう。
ホットワインで乗り切ろう。この身に染みる寒さを……。
お題 三日月
俺は長い間、ある場所を目指して旅に出ている。なんでもそこにはどのような病をも癒やす、なにかがあるのだそうだ。
三日月の形をした湖を目指せ。三日月の夜に照らされた湖面の水を汲め。その水には身体を癒やす不思議なチカラが籠もっている。
そう村長に言われて旅に出た。
旅に出てもう三週間経った。出会った人々に尋ねながら、この山の奥地にあると聞いて登って来た。
かなり険しい山道だった。俺は息を切らしながら歩いた。道中休憩を挟みながら歩いた。
そしてやっとその湖に辿り着いた。
三日月の形をした湖。特に変哲もない湖だ。本当にこの湖の水が、人を癒やすのだろうか。
俺は三日月が登る日までここに野営した。この山に登る前に三日分の食料は調達済みだ。だからゆっくりとその日まで待つ車にした。
そしてその日か来た。月が天頂へと登っていく。俺はゴムボートを用意して、月が湖を照らし出すのを待った。
やがて天頂へと登った月から、キラキラと光が湖面に向かって降りていく。降ってきた月明かりで湖面が照らされた。
俺はゴムボートでそこへ向かう。そして光を受けた湖面の水を、瓶に汲んで蓋をした。
ようやく念願の水を手に入れた。
この水さえあれば、俺は大金持ちになれる!
早速山を降りた。麓の村で、試しに病気の娘に飲ませてみた。すぐさま効いて元気になったのだ。
これはイケる!
俺は街に出て、アコギな商売を始めた。高額をふっかけて、庶民から金銭を巻き上げた。残りわずかになると、湖に出かけて水を汲みに行った。
あっという間に俺は大金持ちになった。俺は美女に囲まれ、酌をしてもらいながら肉を頬張る。何と言う幸せか……
そんな暴飲暴食の日々に明け暮れては健康であるはずがない。俺は今で言う生活習慣病、贅沢病になってしまった。
慌ててあの湖の水を求めて山に登った。必死で歩いた。俺はもっと生きたい。もっと遊びたいのだ。
山頂へ着いた俺は驚愕した。湖が干からびていたのだ。
俺は絶望感でいっぱいだった。そんな時だ。胸がぐっと鷲掴みにされるような感覚に襲われて地面に倒れた。
風景が暗くなっていく。
誰か助けて。
「もう、私を使って荒稼ぎはしませんか?」
誰か語りかけてくる。
「一度だけ助けましょう。もう二度と私を使って稼がないように。二度目はありませんよ」
口の中に水のようななにかが入った。俺はそれを飲んだ。すっと痛みが収まり苦しさが無くなる。
俺は大量の脂汗をかいて、ぐったりと横たわる。苦しかった息が整う。
俺はなんて事をしたんだ。こんな苦しい思いをする人達から金品を巻き上げてたなんて馬鹿だった。
それから山を下りた俺は、荒稼ぎした金銭を投げ売って病院を建てた。高名な医師と薬師を集めて、多くの患者を癒やせるようにだ。
もうあんな苦しい思いを、他の者に味あわせたくなかったからだ。
あの時の声が誰かは分からない。だが、あの時助けられたのは確かだ。誰かに助けられたから、助けられた者の気持ちが分かった。
だからもう二度とあの水で稼ぐのはやめる。金で相手を踏みにじりたくないから。
お題 色とりどり
お題 君と一緒に
この道をいつも君は通っていた。「この道の桜並木が好きだ」と言っていた。君とこの道を歩くのが僕は大好きだった。
春になると見事な満開の桜を愛でて歩いた。「ホントはお団子が食べたいんじゃないの?」ってからかわれていたな。
桜吹雪の中歩く君は、女神のように輝いていた。眩しくて立ち眩みするかと思うほど……
そんな君と一緒にいつまでも歩いて行きたかった。離れたくなかった。
あの日君がこの道を歩いていたら、後ろから走っていた車に轢かれて死んでしまった。前方不注意だったらしい。
僕は激しい喪失感とともに、もうこの道を歩けなくなってしまった。思い出したくないからだ。
この道を君と一緒に歩けなくなった。もう二度と一緒には……