毎日のように愛を伝えてくれる彼。
好きだ!とか、大好き!とか。
私はそんな言葉に、いつも素っ気なく返してしまう。
わかってる。とか、どうも。とか。
だって恥ずかしいんだ。人前でだって憚らないし。
そんなんだから、友達に言われちゃったんだ。
愛想尽かされちゃうよ?って。
その時は誤魔化したけど、否定は出来なかった。
だってそんなこと、私が一番怖がってるから。
それでも素直になれない自分が、嫌いだ。
今日も彼は愛を叫んでくる。
大好きだよ!って。
いつものように照れ隠しの返事を言いかけて、やめる。
友達からの忠告を思い出したから。
言わないと、分かってくれない。
伝えないと、理解してくれない。
当たり前だけど、大事なこと。
私が今まで、出来なかったこと。
彼を悲しませないように。
愛想尽かされないように。
...愛を言い返せるように。
たまには、言ってあげるよ。
ちゃんと聞いててよね。
「私も、好き。」
ああ、きっと今の私、すっごく真っ赤だ。
愛してる。その言葉が最後だった。
他の女と関係を持ち、私の元を離れていった。
金も時間も誰よりも費やしたのに。
彼は私を選ばなかった。私を捨てた。
子を身篭ったとわかったのはその2週間後。
彼との子だ。確信した。
この子がいれば、彼はきっと戻ってくる。
彼は子供好きだったから、
子供が欲しくて他の女に移っただけよ。
私たちの間に子供が出来たと知ったら、
直ぐに私の元に帰ってくるわ。
だって、だって愛してるって言ってくれたもの。
早く出ておいで。私のたった一つの希望。
「あなたをずっと待っているのよ。」
彼女を一目見た瞬間、身を焼くほどの衝動に駆られた。
彼女と話したい。彼女と遊びたい。
心を手に入れたい。僕のものにしたい。
この手でぐちゃぐちゃにしてしまいたい。
初めての激情だった。心臓がうるさかった。
知りたくなかった。感じたくなかった。
僕という人間は、こんなにも汚くて、愚かだったのか。
本能が彼女を強く求めた。理性が僕を嘲笑った。
私の趣味は列車旅行。
行き先も見ずに知らない列車に乗る。
大きな期待と小さな不安を胸に抱えて、
知らない場所に旅立つ。
気の向くままに駅を降り、
行き当たりばったりで泊まったりもして。
そんな旅行が、どうしようもないほどに好きだった。
今日も列車に乗って、宛のないまま揺られてる。
海が見えるところだろうか、山があるかもしれない。
あぜ道なんかを、泥んこになりながら進もうか。
何処に泊まろう、野宿だってしてみたい。
窓の外を眺めながら、この先の出会いに思いを馳せる。
人気が無くなった車両で胸を押えて笑ってみる。
心臓が酷く高鳴った。頬が紅潮した。
私は今、まだ見ぬ場所に恋してる。
受け入れてもらえないことは、最初からわかってた。
だからって諦められるものではないのよ。
好きになってしまったの。
好きになってもらえたの。
この運命を、この奇跡を、他人に壊されたくない。
遠くの町へ逃げましょう。
貴方とふたりなら、何処へでも行けるわ。
夜更けと共に窓から飛び降りるの。
荷物なんて置いて行って。私にはあなたがいればいい。
裸足で駆けましょう。石や枝が突き刺さろうと。
足を止めないで。肺が甲高い悲鳴を上げても。
周りの目なんて気にしないで。私だけを見てて。
きっと、辿り着いたそこには、
私達を知っている人なんて一人もいないから。