Kiss/初めて
席の後ろから何回も聞こえる
「好きだよ」の声
断った筈なのにしつこい
「授業中だよ」
と振り向いてもにやける顔が
キモい
私はそれどころじゃない
好きだった人にフンワリ
断られてショックで
落ち込んでんのに
寂しい気持ちで萎む高揚
何だったんだろう
今まで大好きだから告白したのに
図書室の椅子を背中合わせに
座ってきてドキドキしたのは
何だったんだろう
友達と作ってる漫画クラブの
原稿を覗いてきたのは
何だったんだろう
思い出すことは山ほどあるのに
どうして、
もやもやしたまま帰る道が
あいつと一緒って気づかなかった
地下鉄で目が合うまで
「あれ、帰る方向一緒だったんだ」
目の前に来て、一言
「あいつなんて忘れたら
いいじゃん、俺じゃ駄目か」
呆気に取られて返事もできない
恥ずかしい
何で知ってるの
私は下を向いた
明くる日、顔を見たら顔が少し
気まずいようでぎこちない
頬の辺りがむず痒い
「おはよう」
自分から声を掛けたので
あいつは笑顔だ
「おはよう」
なんか、罪悪感がスッと抜けた
気がした
あいつはサッカー部だって
ふうん、と思ったけど
背が低くて日焼けしてる顔を
思い出すと、どのポジション?
ってちょっとだけ気になった
サイドバック、って言ったので
じゃあ見に行くよって口から出た
自分でもよく分からない、
相変わらず私は図書室で、友達と
同人誌の話をしてた
キャプテン翼が流行っていた
二次創作の四コマで爆笑したり
お気に入りが誰かで顔突き合わせ
たりして
恋のことなんていつの間にか忘れて
しまった
夏の学祭の帰り道は遅いから暗い
一人で帰る私を引き留めて、
あいつが、一緒に帰ろうって来た
別にいいけど、と言いつつ
一緒に玄関を出て並んで歩く
地下鉄乗継のバスももうない
から歩いて帰るしかない
「送るよ、遅くなったし」
うん、でも違う方向なんじゃない
「いいんだ、ほら行こう」
手を差し出されて、ドキンとした
恥ずかしい
黙って隣を歩き、公園を抜ける
道で、あいつは手を引っ張って
きた
「俺、本気で好きなんだ」
初めてハグされた
拒めずに固まった
顎に手が来た、こんな、
初めてのキス
1000年先も/一人飯
今日も僕は飲食店で一人飯を食べている
学生の頃から変わらない
特になんてこと無い日常だけど
ふと思うんだ
1000年先の人類は一人飯を
するんだろうか
それともお気に入りのロボットと話す
んだろうか
それでも話題を探して一生懸命話す
んだろうか
人が減って、探して話すようになる
んだろうか
連絡先を交換したり
飽きてメッセージの送り主がロボット
だったり
アンドロイドだったりするんだろうか
山葵がツンと効いた
一人でも寂しくない繋がりって
僕は苦手なんだ
オンラインゲームで話すことも
SNSで知り合ってリアルで会うようなことも
でも今が繋がる1000年先って分からない
一人で夕焼けを見られるとか
ご飯を自由に堪能できるような
そんなことも自由だといいなと思う
ゆっくりお茶を飲もう
勿忘草/春が近い
春が待ち遠しい二月、
丘の勿忘草が一斉に花開き出す
小さな花弁に明るい青
空の色を映してる
伝説や花言葉は哀しいけれど
季節は呼吸を繰り返すから
春を待つ思いには
冬の暗がりから生き返った世界
ひたすら春の匂いと輝きが
青く群れている喜びが溢れる
春が近づいてきたよ
ブランコ/揺れる
漕いで漕いで空高く。
妹がきゃあきゃあ言っている
仲良しだった幼い日々
お父さんと喧嘩して
飛び出してきた
公園のブランコだけが
迷う私を肯定するようだ
お父さんの言うことと
自分の渇望で揺れ動くのを
揺らすだけでも肯定してくれるみたい
結局決めるのは私で
後悔も受け止めるのも自分
お父さんのせいじゃない
会いたい、と思ったり
今は会ったらダメだ、と
頑固に優柔不断が染みる
結婚相手も自分で選んで
紹介すると難しい顔をする
お父さん
二人で頑張るよ、と言って
彼と結婚した
子どもが出来て
お父さんが笑顔になった
慌ただしく過ぎた日々
子育てに一喜一憂、
夫婦で生活が変わっていく
背と背の日常が
二人違っていく
そして二人きりになった
頑固と一喜一憂の染みが
割れ目を黒く塗りつぶす
変わらないと感じる日常に
ゆらゆら揺れる気持ち
別れを言わない代わりに
静けさで寂しくなった
そして一人分のコーヒーを淹れた
旅路の果てに/人の中で
家族の中に僕は生まれた
おばあちゃんがやってくる
村のおじさん、おばさん
おはよう、お帰り、こんばんは
心通う中で始まった世界
草むらに生えている野菊
蒲公英
塀に這わせたグースベリー
川の側には山葡萄
一人でも寂しくなかった
学校に降りていく坂道
夕方鳴っているサイレンの音
友達とさよならして帰る坂
ーー
都会の世界で暮らす頃
知らない人の中で
歩いて生きて
僕は毎日が燻っていて
クリアにならない空気に
気づかないまま
重くなる背中
躓きやすい足で
懸命にあがいた
ーー
ふと思い出すことは
たくさんの人の中で
一喜一憂していた
ようやく落ち着いた今
遠い昔が霞む目で
のんびり詩など書いている