10年前に買った安いウェディングドレスをクローゼットから引っ張り出す。
隣には彼のウエディングスーツ。
お金なかったから、レンタルにしようって言う彼に、ドレスだけは自分で買うからと買ったドレス。
スーツはレンタルのものを買い取らせてもらった。
高校生の頃から付き合って、大学は別々だったけれど別れる事もなくお互い社会人になったばかりの頃
『結婚してください』
って言ってもらったのは近所の公園。
お金貯めて、式や披露宴をやりたかった私。
食事会程度の披露宴にして、フォトウェディングにしようと言う彼。
アパレルの業界に進んだ私はドレスだけはとワガママを通してもらった。
安いドレスにアレコレ自分でアレンジして、世界に一つだけの私だけのドレス。
写真だけでも撮りたかったなぁ。
フォトウェディングの予約をした後、すぐに事故で眠ったままの彼。
入籍すらまだだったのに。
それからは、両家両親から反対されつつも、彼の入院代を稼ぐために働き、時間が許す限り病院にいた。
今日はプロポーズをもらってちょうど10年目。
本当はウェディングドレスを着たかったけれど、彼もスーツに袖を通した事はないし、何よりそんな格好で病院に行けば目立ってしまう。
だから、白のワンピース。いつものお花を持って病室に入る。
いつもと変わらず、眠ったままの彼。
頭を撫で、胸の鼓動を確認し、手を握る。
暖かい。生きてるね。
「結婚してください」
今度は私が言う。返事はない。
彼の唇に自分のそれを重ねる。
今でも大好き。
彼の命を繋ぐビニールの管を抜く。
私はそのうちの針のある一本を私の腕の血管に差し込み、抜いた針のある反対の方からフーと息を吹き込む。
彼の隣に横たわり、手を握る。
お互いの胸の鼓動が止まる時、一緒にいられますようにと瞼を閉じる。
小学校に上がる前、お母さんが珍しく夜の散歩に連れ出してくれた。
いつも仕事で忙しく、夜に家にいる事さえ珍しいお母さん。
私にはおじいちゃんもおばあちゃんもお父さんもいない。
私とお母さんのために働いてくれるお母さんの迷惑にならないようにと過ごしていたはず。
と、言うのも、珍しい夜の散歩の途中の踏切で遮断機が降りて、カンカンカンカンカンカンカンカン
と、鳴り響く警報音を聞こえていないかのように、私ににっこり笑いかけて遮断機を潜って私の手を引くお母さん。
「ダメだよ」って声も聞こえないのか、お母さんはにっこり笑って「大丈夫よ」って言う。
怖いからブンブン首を横に振って行かないと意思表示。
行かないでって強くお母さんの手を握る。
お母さんとの記憶はそれが最後。
良くわからないけれど、一緒に暮らしていた小さな古いアパートでお母さんは死んだらしい。
次の記憶は親のいない子がみんなで生活する施設。
私はそこでもなるべく人に迷惑かけないようにと心がけていた。
毎晩、施設の人が絵本を読んでくれるけれど、桃太郎なんかだと、鬼退治の後は、あの日のカンカンカンカンって踏切の音が頭の中で大音量で聞こえた。
他にもグリム童話のお菓子の家が出てくる本も、お菓子の家に着くまでは話が聞けるんだけど、兄弟が逃げ出すところからカンカンカンカン…
そのせいで物語の終わりがわからないまま過ごした。
カンカンと踏切の音が聞こえる事はそれだけではなく、私に会いに来た人の中にも会った瞬間にカンカンなる人もいたし、同級生もしかり。
私が施設を退所する頃に、私は結構な財産持ちである事を知った。
孤児院育ちの母が生涯かけたって稼げる額ではなかった。
だから、保険金の他、私の見た事もない父親は随分な金持ちで手切金に渡したのだろうと予想した。
高校を卒業し、大学には行かず高卒で仕事を始めた。
出会う人の中にもカンカンなる人がいたから、そういった人とはなるべく関わらず生きた。
ただ、高校生の頃から憧れて、恋焦がれ、高嶺の花と諦めていた男性と仕事で偶然に出会った。
遠くにカンカンとなり響くのは危機感を薄くした。
少しずつその男性との距離が近づいて、カンカンなる音も同じスピードで大きくなった。
慣れとは怖いもの。色ボケも怖い。
プロポーズされた日には、相手が何と言ったか聞こえないほどの大音量でカンカンカンカンカンカンカンカン…
頷くのが精一杯だった。
それからは毎日が鳴り止まない警報音。
式もあげた。新婚旅行にも行った。
その間も警報音は鳴り止まない。
幸せなはずなのに、幸せだと感じない。
気がつけば、母が私を誘った踏切の前にいた。
あの時と違うのは私は1人で、踏切の反対側に夫がいる事。それと、線路にいないはずのお母さんがいる。仕方ないなって顔して私に手を差し伸べてくれている。
もう、カンカンカンカンとなっているはずの警報音は聞こえない。
その代わり、お母さんがパチン、パチンと手を鳴らして『手のなる方へ』
って声が聞こえた。
拒む理由なんてない。
あの日、お母さんは1人で死んだ。
本当は私も一緒に連れて行きたかったのに。
私の人生における不幸は、警報音で知らせてくれた。
音ではなく、お母さんは目で声で危険を知らせてくれている。
私の人生の終わりの時を告げる、深い慈愛に満ちた笑顔で。
今日の嫁いびりは、アサリのお味噌汁のアサリは貝殻だけでした。
ほぐすの手間かかってて、お疲れさん。
年金暮らしの義理の両親、結婚してすぐ同居の為仕事辞めたまま働かない夫。三人の生活費を稼ぐ私。
離婚準備、整いました!
私がいなくなったあとは夫の不倫相手の風俗嬢にたんと稼いでもらってくださいねー!
キラキラ輝くネオン街。
ちょっと前までは凄く嫌いだったのに、今は行きたくて仕方ない。
子供が産まれて四苦八苦しながら育てて、ようやく幼稚園。
周りに感化されて始めた娘のピアノ教室。
個人で教えてくれる先生に通う事になったはいいけど、レッスンの時間は18:00から。
終わりは19:00。
幼稚園が終わりお迎えに行き、公園遊びや家事をしてピアノの送り迎え。
先生のご自宅でレッスンを受ける為、車で通る道の間にネオン街がある。
始めた春の頃はまだお日様が残っていたけど、今は帰りは暗闇で、ネオンがキラキラ眩しい通りは夜が始まったばかりと活気付く。
子供が産まれる前は、気を遣いながら飲むお酒や、
呑んで酔っ払った上司に絡まれたりいい思い出はないけれど、行けないってなったら行きたくなる。
私、天邪鬼なだけかな?
可愛い我が子を家に置いて飲みに行こうなんてサラサラ思わないけれど、完璧な化粧、露出の多いドレスにハイヒールの煌びやかな若い子と、黒服らしき男性。
もう、足を踏み入れる事はないかもしれない、煌めく世界にまた行きたいなぁ。
あ、夫はたまに行ってるな。
あの煌びやかな若い子と私。
一緒にお酒を楽しむなら綺麗な女性がいいよね。
たまにはお化粧して「おかえり」って言ってみようかな。
生活感アリアリの家には似つかわしくないかな。
『おかえり』
「うん」
『ご飯まだだよね?』
「…」ジャケット脱ぎつつスマホ
『先にお風呂入る?』
「…食べる」
『じゃあ、温めるから手を洗って』
「…」手を洗って食卓テーブルにつく
『今日はね、ハンバーグだよー』
「…」
『デミグラスにしようかと思ったけど、和風醤油』
「…」
『だから、スープはお味噌汁なんだー』
「…」
テキパキと料理を並べる嫁
一緒に、いただきますをして食べたはず。
食べながら何か嫁が話していた気もする。
そのあと、嫁が風呂場で自殺するなんて思ってもいなかった。
嫁の腹の中には子供もいて
婦人科で撮って貰ったエコー写真は、嫁が死ぬ3週間前
教えてくれればよかったのに
些細な事でも