一年後

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5/13/2026, 3:37:21 PM

一年後。
今まではなんだったかと言うように、なにも、なにも、変わらなかった。仕方がないことはわかっている。彼があの時全部消したから。でも、あの濃かった去年を思い出してはひとり落ち込むのだ。

「おーい」

ぼんやりしてたら新しく同じクラスになった友達が話しかけてきた。最初に会った時にお前1年の時1人だったよね? なんて言って。違うよ。俺の隣には3人、4人、大切な人たちがいたんだ。

「おいおいおーい」
「あ、ごめん。なんだっけ?」

きちんと彼に向き直る。周りの友達たちも俺の方を見てわはは、なんて笑って。多分、本来の高校生活はこんなんだったんだろう。去年がおかしかっただけで。

「好きな人いる?」

そう、今は修学旅行。布団の中。暗くなった部屋の中央に備品の懐中電灯をつけて、男8人で恋バナをしている。懐かしい。恋バナではなかったけど6人で暗い部屋の中で話していた時を思い出す。ああ、もうずっと、会えるまで去年を思い返して過ごすのかもしれない。それでもいいけれど。そうしたいと願ったのは俺だから。永遠に忘れたくないと思っているから。……すきなひと、彼女はひとじゃないけど、うん。

「いるよ」

答えるとわっ、と騒ぎだす。どんな子? かわいい系? 綺麗系? かっこいい系? なんて。知ってたくせに。大暴れしてたせいで彼女は有名だったのに。そうやってみんなが忘れたことにいちいち落ち込んで。彼らに罪はないのに。だから、教えてあげよう。俺の初恋の神様を。

「……かわいいよ、すごく。かわいくて、かっこよくて、俺には釣り合わないくらい」
「ベタ惚れじゃん、告白しないの?」

ひゅーひゅー、なんてはやし立てられる。

「うん、今は遠いところにいるから。いつか、迎えに行くの。だからそれまで」

いつか。1000年後。みんなが死んで、来世、来来世、来来来世、その先かもしれない。ずっと遠い未来に。だから早く行けよ、って騒がれたけどそれは難しい。

一途のまま、忘れずにいたらって、

「そういう約束だから。早く行くと怒られちゃうし」

惚気の自覚はある。でもこうやって人に話さないとひとりでずっと抱えているには大きいから。よかった。今までは恋バナなんて女の子がするもので話を振られても面白さなんて分からなかったけど、当事者になると少しだけわかった気がする。

「じゃ、俺は寝るね。明日も早いし」

布団に潜る。目を瞑る。早く明日になってほしかった。もうあの日からずっとそう。今の俺は未来のために生きている。今だって、楽しんでいるのはお土産話のための思い出をつくるためだ。雑に生きると怒られてしまう。でもずっと、彼女にあいたくて、彼にもあいたくて。早く時が過ぎないかなと思い続けている。