「おやめ」
自分でも驚くほど低い声がでた。
「え?」
目の前に立っているのは年端もいかない可憐な少女。
無垢な子供は何をしでかすか分からない。
現に、私の家のドアを開こうとしていた。
今家の中を覗かれたらまずい。
先日採ってきた薬草が床に散らばっているのだ。
「ま、魔女……。ホントにいたんだ……」
すっかり怯えきった目でこちらを見つめている。
その瞳には涙が溜まっていた。
「ぃ、いやぁーー!!!」
甲高い叫び声に思わず耳をふさぐ。
手にしていたかごが地面に落ちた。
「魔女じゃない!!」
思わず声を荒げてしまった。
かごいっぱいに入っていた薬草は草の間に落ちて見えなくなる。
時期に土が分解し始めるだろう。
「あぁ…、ごめんなさい。何しに来たの?」
「べ、別に…」
成る程。
この子供はジャンケンに負けこの森に入ってきたらしい。
魔女に会った証拠を見せないと帰れない、か。
実に子供が考えそうな遊びだ。
「…これ」
とにかく、一刻も早く子供を森の外に出したかった。
差し出したのはいつもつけている髪飾り。
縁は美しい金色でかたどられており、縁の内側は魔力で覆われている。
いざという時に命を繋ぐ大事な魔具だ。
こんな高価な魔具をただの子供が手に入れられることはまず無い。
手持ちにはこれしか無かった。
「え……」
「早く行って?日没が迫ってる」
「っ……ま、また…」
まるで弾かれたように駆け出し直ぐに姿が見えなくなった。
良かったと、多少安堵するものも、次の問題を思い出し息を吐き出す。
今日の採った分の薬草は既に分解されている。
だが、新たに薬草を採りに行くことは出来なくなっていた。
そう、日没だ。
日が暗くなるととんでもない程の魔力が森に広がる。
並の人間なら押し潰され森に分解されてしまう。
私は押し潰されはしないが、とてもじゃないが歩く事など出来はしない。
「最悪」
かごだけ回収して家に入った。
ここで少し森が分解するものの定義を教えよう。
そらは、命があったものの死体。
命があっても加工されているものは分解されない。
コンコンッ
「はい」
「あの…」
「……何で、帰ってって言ったはずだけど」
そこに立っていたのは先程の少女だった。
「ご、ごめんなさい。失礼な態度をとって」
「クソッ」
日没になる。
時間がない。
「……あなた、ここに泊まっていきなさい」
「あ、でも」
「いいから」
「…はい」
その日の夕食はいつもより美味しく感じた。
少女がいたからであろう。
熟睡した少女に異変がないか確認してから寝た。
次の日、朝食も食べさせて家に帰るように言った。
「……泊めてくれてありがとう。また来るね」
「駄目」
「朝に来るから!この時間帯」
「…分かった、さよなら」
「また明日」
「明日?明日も来るつもりなの?」
「そう」
村の子供と打ち解けて思った事が一つだけあった。
子供と接するのは以外と楽しいのかもしれない。
ーまた明日ー