夏の間に浴び続けた灼熱が
秋の葉を散り散りに焦がし尽くす
葉が落ちきるまでの一瞬
青い葉が
焔を纏い
輝きを上げ
枯れ落ちる
赤、橙、黄色、緋色、
燃える炎
秋の葉
あなたは九月の半ばに生まれた
上のきょうだいは、生まれ、すぐに亡くなった
名前をつける間もなく
亡くなったきょうだいに付けるはずの言葉の一字が、あなたの名に与えられた
大きくなってから、あなたが父親から聞いた話
あなたには弟妹がいた
上にも姉たちがいたが、年が離れていた
あなたはちょうど真ん中の、三番目のきょうだい
たくさんのきょうだいを産み、母親は亡くなった
上の姉たちは嫁いでいる
残された弟妹の面倒をみることにした
あなたは女学生
戦争の時代だった
いくつかの戦争が起きたが、ニュースは良い結果しか言わない
普通に暮らしを送りながら、学生生活を過ごしながら、戦争の色は日々の中に滲んでいく
じわじわと破滅に向かう
ぬかるみの中
敵が来たらと竹槍を持たされ
油を採るために松の木の根を掘り
戦地に向かう人のためにひと針を刺す
千人針なんて刺したところで、銃で撃たれたら死んじゃうのにね、
と、あなたは思う
焼夷弾に家を町を燃やされた
川の側に折り重なる死体を見た
焼け焦げた死体は手足が縮まる
町中に死体があった
あなたと家族は生き延びた
生き延びて、生き続けた
百四年の秋を繰り返し
生きたあなたのことを思う
ばあちゃん
秋生まれのあなたは、淡い紫色が好きだったね
秋になると、あなたが好きな色を見ると、あなたのことを思い出す
生きてくれて、私の祖母でいてくれて、ありがとう
あなたと過ごせたことは、とても、有り難いことでした
また、あなたと話せたらいいのになあ
もしも世界が終わるなら
この憂鬱
喉がつかえる息苦しさ
明日への不安
昨日への後悔
乗り越えられなかった悔しさ
この身を焼け焦がす怒り
あなたへの憎しみ
あなたへの親愛
涙が出るほど笑ったこと
帰り道の空をただ美しいと思ったこと
ふと浮かんだ鼻歌
書きつけた言の葉
亡くなったひとの思い出
あなたが触れてくれたこと
わたしのなかにあるもの
世界が終わるのならば、これまで
すべて、私の中で途絶える
私だけが持つもの
私だけの、宝物
あなたの靴だ
はじめての靴
紐で結く、はじめての靴
歩いていれば、色々起こる
靴紐がほどけた
紐の先が、ばらばら動く
歩くたび、あっちこっちに紐がぶつかる
靴紐を結んだ
けれど、うまく結べない
不格好な、固結び
靴紐がほどけた
片方だけ
いつの間にか
靴紐を結んだ
がんばって、蝶結びにした
斜めだけど
初めて結べた
歩く
ほどける
結ぶ
歩く
結んだものは、どこかでほどける
そのままでも、歩けはする、けど
靴紐を結ぶ
また、この靴で歩くために
次の場所へ渡る
今いるここから
ここではない場所へ
住み良い棲家を求めて
生きていける場所を求めて
貴方は羽ばたく
嵐
墜落
飢え
力尽きる
いつかは、そうなる
でも、今は
羽ばたく貴方に祝福を