そっと目を開けると
病院のベッドに寝かされていた
あれ?
おかしいな…
何があったんだっけ
考えようとすると頭が痛くなった
うっ…
声を出そうとすると
喉が詰まり
口はカラカラに乾いている
体勢を変えてみようかと思ったら
身体に力が入らない
ただ天井を見つめてぼんやりしていると
近くから誰かが慌てた様子で
何か話している声が聞こえてきた
しばらくすると
私を覗き込む顔が見えた
ベッドが揺れる
身体に痛みが走った
いっ…
痛いと言いたい
またしばらくして
目の前に
あ から ん まで
ひらがなが書かれたボードが
見えた
ー聞こえるなら 聞こえると
目で示してください
聞こえてきた
き こ え る
目だけが慌ただしい
ガヤガヤと病室が騒がしい
私に何があったのか
あなたは
震災の被災者です
生き残ったんですよ
わ た し が ?
そうです!そうです!
私は疲れたのと涙が込み上げてきたのとで
目を閉じた
家族は…みんなは…
私は生き残ってしまった
その後
毎日、体を動かすリハビリが
激痛で
トロッとした飲み物を飲むことにも苦労した
必死で 必死で
生きている
生きていく
私は
とにかく
生きている
いつか
沖縄に行きたい
そこでのんびりと
暮らしたい
未だ見ぬ景色に
ときめきたい
あの夢の続きを歩く今の自分がここにある
だから
過去の自分へ
大丈夫
大丈夫だから
そのままここに来て
みんなこの星のひとかけら
鈴の音が聞こえた
猫だ
ー旦那さん
ご機嫌麗しゅう
ボクは猫の格好をした人間でござりますにゃ
良かったらご飯をお供させてもらっても
良いんですにゃ
一つの釜で飯を共にする
仲間ににゃりましょうにゃ
ボクは少し分けてもらえたら嬉しいですにゃ
もうご飯の時間ですにゃ
りんりん鈴の音を鳴らして
メシメシうるさいので
熱々の納豆ご飯を用意すると猫は嫌な顔をして
ボクの趣味に合わにゃいご飯をご用意するにゃんて
にゃんと卑劣極まる…
また来ますにゃ〜
遠ざかる鈴の音を聴きながら
僕は納豆ご飯を食べた