静か過ぎる
私の部屋は
独りで住むには
多少広過ぎた
ーただいま
それまでの静寂に包まれていた私の部屋に
私が帰って来た
さびしい
けれど
それで良いんだ
着信のないスマホ
部屋に転がして
伸びをする
今日も
お疲れ様
先輩聞いてくださいよー
昨日彼女との別れ際に
綺麗だねって言ったんです
そしたら苦笑いされちゃって
僕なんか変なこと言いましたかね〜…
ーあ?お前の愛しの君子ちゃんがどうしたって?
やだな先輩、僕の彼女に変なあだ名
付けないでくださいよー
もういいですよう
仕事 仕事
ー バーカ お前いっつもおんなじ事
彼女ちゃんに言ってねーか?
だからだよー
先輩決めつけないでくださいよー
美人だねとか ちゃんと言い方変えていますよう
ー呆れてものも言えねえな
何でなんですかー!?
ーもともと言われ慣れてる言葉ばっかりできっと
うんざりされちゃってんじゃないかー?
そそんなぁー…先輩酷いこと言うなぁ
僕だって気を遣ってるのにー
ーこれだからお坊ちゃんは〜
もっと他に言えることあんだろうが
語彙力ねえのかよ 語彙力
ちきしょー今度会ったら
なんて言えば良いんだよー
ー苦笑
先輩まで苦笑しないでくださいよぉー
ーおう 先あがるわーおつかれ〜
せんぱーい…
お疲れ様でーす…
あの人は
僕にとって通り雨のような人だった
蒸し暑い時期に出会った
稲光を身体に感じた
だけど
病気でこの世を去ってしまった
僕は
まだ 信じられない
明日でももしかすると
会えるんじゃ無いか
カフェのいつもの席に座っているんじゃ
そんなふうに
思ってしまう
探してしまう
姿がないことが
受け止められない
結婚するつもりだった
それほど真剣だった
蒸し暑い時期を
僕はまた待つのだろう
家族で最近出掛けていないことに気がついた
私は家族に
今度の休みどこに行きたい
と 聞いた
お肉食べたい!
マック行くー
ショッピングしたい
いろいろ 言いたい放題だ
私は
秋だから ぶどう狩り行かないか
と提案した
はい!行く!
わーいぶどう食べる
秋だもんねー
ということで
家族揃って
ぶどう狩りに出かけることにした
ーーぶどう狩り当日
よし
準備はいいか
タオル
クーラーボックス
氷
日焼け止め
帽子
水筒
お弁当
虫除けスプレー
行くか
行くことになった
車を走らせ
およそ1時間
予約をしておいた
果樹園に到着した
軍手とハサミとカゴを渡された
こちらへどうぞー
案内されるなり
みんな一斉にぶどうに飛びついて行った
ーーそして帰り道
たくさん食べたー
お腹いっぱい
お疲れ様ー
皆んなそれぞれの秋を
見つけたらしかった
家族サービスのつもりが
自分自身がはしゃいでしまった
やあ
楽しい秋だな
皆んな、お疲れさん
後輩と会社で残業
先輩、窓の外見てくださいよ と後輩
中秋の名月ってやつっすか?
バカ それはもう終わっただろ
外を眺める
きらきらと街が煌めいて
空には月が光っていた
コーヒーでも飲むか
おごるよ
あざーっす
まだまだ元気そうな後輩は
もうパソコンに向かい直っている
息抜きに外の空気に触れるため
缶コーヒーを買いに出た
少し寒いな
秋か…