【鐘の音】
幼い日の事
一緒に歩いてる母から
「風は何処から来ると思う?」
と聞かれた
数日前に幼稚園で見た
絵本の挿絵が浮かんだ
話の内容は覚えてないが
教会だと思われる鐘の陰から
息をふうっと吹く男の顔
そのまま伝えた
「町内の鐘の中」
自分の子供が同じ事を言うと
その将来を心配してしまいそうだが
母はとても興味深そうに聞いてきた
「どこの?」
「外国と思う」
「鐘が鳴ったら風が吹くの?」
「分からないけど男の人が息をして風が吹く」
そんなやり取りをしばし続けた
拙い言葉を拾いながら
どんな空想を膨らませてたのか
母はとても楽しそうだった
数十年後
母は脳を患った
見舞いに行くと
空想と現実の境い目が無くなり
辻褄の合わない色んな話を
それは楽しそうにしてくれた
あの日
息子の拙い話の中に
母が聞いたであろう
鐘の音が
何処か遠くで
聞こえた気がした
【つまらないことでも】
だとしても
それでも
俺には宝物なんだ
【目が覚めるまでに】
嫌な事が終わって
身体が軽くなって
溜まった仕事が片付いて
あの人が優しくなって
あの人が元気になって
物価が下がって
ちょっぴりイケメンになって
気力が満ちて
色々と無かった事になって
色々と望む方に進んで
週休5日になって
行きやすい所に美味しいお店がいっぱい出来て
少し気温が落ち着いて
みんな笑顔になって
若返ったりなんかもして
窓の外が絶景になって
寝るのが勿体ないくらいの明日に・・・
二度寝じゃい!
【病室】
幸いな事に
あまり縁が無かったが
数年前にとうとうお世話になる事となった
立て続けに・・・
症状が治まると
普段の生活とは違う空間に
発見も多い
歳も症状も価値観も違う同居人達
漏れ聞こえてくる話も
普段聞く話とは違って新鮮だ
ワガママな人もいる
出来の悪い生徒達の面倒を見る
先生(看護師さん)達
軽口叩いたり
ダメって言われた事やったり
無理な注文言ったり
こうしてくれるのが当然
なんて事まで言ったりする
夜中に何度もナースコールを押し
背中痒いと言ったり
喉乾いたと言ったり
セクハラ紛いな事言ったり
いやありゃ完全なセクハラか
看護師さん達はサービス業ではない
相手はお客さんではなく
患者さんだ
仮にサービス業だったとしても
如何とは思うが
それでもナースコールの度にやって来て
セクハラは軽くあしらい
優しく声を掛け
可能な限り対応し
寄り添い(身体的な事ではなくて)
有事の際にはすぐに駆け付け
大丈夫?と声を掛けながら懸命に処置をしてくれる
実際彼等の本業はそこのはずだ
ましてや
当時はコロナで大変な時期でもあった
ベッドの上から見れるのは
膨大な仕事のほんの一部だろう
それでも凄い人達だと思った
実際
自分の仕事を考えても
管轄外の事は基本やらない
当たり前のように求められれば尚更だ
自分の仕事ぶりを少し恥じた
絶食治療はつらかったけど
凄くいい経験をさせてもらった
治療してもらったのは
身体だけでは無かったかも知れない
【明日、もし晴れたら】
今日より少しだけ頑張ってみよう
今日より少しだけ楽しい事も考えよう
今日より少しだけいい日にしよう