NoName

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2/28/2024, 2:54:40 PM

ここは自由な土地、ノースベルゲン。
今日も人々は、たった一つの法律に従って、平和に暮らしている。
その法律は、
「人を傷つけてはならない」。
これこそが、この国では絶対の正義。人を傷つけるような人が、優しい人なわけがない。そんなのは当たり前のことだ。
人を悪く言ったり、貶めるようなことはしてはいけない。傷つけられた人の立場になって考えてみて。そうしたら自ずと答えは分かるはず───

そうだ、だからボクは法律を守っていた。
この法律さえ守れば、世界は本当にボクを優しく包んでいた。
いつ、間違えたのだろうか。
世界はボクに優しく接しなくなった。
パン屋さんでおばさんの笑顔を受け取っても、果てしなく続く水平線を眺めてみても、ボクのこころは晴れなかった。
家に帰っても、ボクは透明な人々に非難されているように感じた。
どうして?
昨日まではそんなことはなかったのに。
ボクは法律を破っていない。
だけど、胸が張り裂けそうになるんだ。
顔を洗おう。そうしたら、一時的にでも、気分が晴れるかもしれない。
ボクは洗面台の、鏡の前に立った。
そこにはいつも通りのボクがいた。少し、安心した。
やっぱり、ボクはボクだった。いつもと同じ、変わらないボク。
それを確信してから、またボクのこころは軽くなった。やっぱり世界は優しい。
陽の光が、柔らかく、カーテンから差し込んでいる。
ボクは一抹の不安も抱くことなく、微睡みの中に溶け出した。


息苦しい。
助けて。
逃げよう、みんなで。ここにいたらいずれ私たちも殺される。
私たちの発言権なんて、この国では認められない。
お母さん、熱いよう……
ええ、あと少しだから我慢してね…
逃げよう。
逃げよう。
何処か、遠くはなれた場所へ。
「悪意」の住む町へ。