maria

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11/10/2023, 4:19:22 PM

「ススキ」

無垢で善意に満ちた老婆のような
クシャクシャな手を持ちながら
秋風に弱々しく手招きしながらも


そなたの葉は
私の腕を優しく撫でるかの如く
悪意などないように
笑顔でそわりと撫でるかの如く
ひとから見えないように、
ヒリヒリといつまでもうずく
たちの悪い薄い傷をつける

まるでこの社会の
蠢く奴らと同じなんだよ。

芒よ。おまえのことだ。

           「ススキ」

11/9/2023, 10:27:01 PM

「脳裏」

例えば 

私がうつした風邪

病気で逝った猫の最期のまなざし

涼しい部屋の室外機の地獄の暑さ

誤って踏んだ蟷螂の断末魔

蜘蛛の巣を払われて絶望する蜘蛛の姿

幼子の泣き声を無視したこと

善い人間の真似事をした自己満足



それらすべて

私が決して忘れないように。

彼らが私を

「謝りもしない 酷いやつ」と

覚えていてくれるように。

私の罪を生涯許さぬように。

私も又 自分の罪を

生涯 心に持って共に生きるべく

私は脳裏に焼き付ける



          「脳裏」

11/8/2023, 2:04:02 PM

「意味がないこと」


あなたを護りたくて

側にいることをやめようとした私に

黒い瞳で真っ直ぐに私を見つめ 


「もう顔も見たくないってこと?」


そんなこと言うあなたの言葉に

「今のは、心からうんと離れた
隣の部屋あたりから飛んできた言葉?」

と返す私。

ねえ、本当はそんなこと

微塵も思ってないんでしょう。

離れられるわけないって

わかっているのでしょう?

わたしたちのお互いは お互いに

言葉なんて必要としないから

あなたがわかっているということまで

私には わかってしまう。

こんなふうに心と違う言葉を

わざとのように 口にしては

遊んでしまうこともできる。

ねえでも それって 意味なくない?

もう 何も言わないことが 

いちばん伝わるのだから

      でしよ?


       「意味がないこと」

11/7/2023, 10:14:33 PM

「あなたとわたし」

同じものをみても感想が違う。

曲を聴いても、絵画を見ても、

本を読んでも、あるいは同じ気温の元にいてすら
違うのに、共感できないのに

とけ合えないのは 他の人と同じなのに




どうしてあなたを特別だとおもうんだろう。

どうして わかってしまうのか

あなたには





「あなたとわたし」

11/6/2023, 2:40:20 PM

「柔らかい雨」

片方の靴が側溝から見つかり

傘立ての傘が折られ

たった一人の友が遠ざかり

野良猫から威嚇され

どういう顔で家のドアをくぐればよいのか

途方に暮れる



ああ どうか 雨よ

あなたさえ優しくあってくれたなら

あなたさえ私の頬の涙をかくして

あなたさえ柔らかく髪を撫で下ろし

私が真っ直ぐに前を向く

その道しるべとなってくれたなら

あなたがそうあってくれるのなら




  私は顔を上げて歩けるだろう



         「柔らかい雨」

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