使い捨てマスクのように
過去の恋なんて全て忘れていた
実らなかった恋がほとんどだった
それくらい私は地味で
それくらい私は人を知らなかった
そんな私をおしゃれ下手から上級者に昇華したのは
初めて付き合った年下の彼だった
外見だけではなく
その人は私の内面まで綺麗に仕上げた
人を知らない私は
恋を実らせることの出来ない私
彼はそれを見抜いてた
私のトータルコーディネーターとして近づいた
その本心を私は見破られらなかった
詐欺のようで詐欺ではなくて
友達のようでただの友達でもない
そんな中途半端な恋だった
彼は言った
「俺が君に近づいたのは君を放って置けなかったから。
危なっかしくて見た目も地味な君を。
気づいたら新たな色に染まった君に恋をしてた。
でもそれは、俺が作り上げた理想の女だからではなく
俺が手助けして仕上がった素敵な女になったから」
その彼の本音を聞いて私は涙が止まらなかった。
そんな素敵な告白をした彼は
突然、海外に飛び立って姿を消した
理由は日本のテレビの報道番組で知った
彼は特殊詐欺の仲間だったが
本部となる半グレ集団から逃げるため海外に逃げた
でも、彼はある晩に山で暴力を振るわれ銃で撃たれた
この世から去ってしまった
「あの人は貴方を好きなように遊んでいた。
もう、忘れたほうがいいよ」
そう友達が言っても私は
嘘かもしれない良い面も本性の悪い面も
好きになっていた
忘れたいのに忘れられない人にした彼の罪は
彼が実行した特殊詐欺並みの大罪である
タカのように鋭い眼差しで占い師は私の手相を見る
黙ったままの彼女が見つける何かを
私はただ、スズメのように怯えた眼差しで思案する
そして占い師は口を開く
「貴方には歴史に名を残すほどの恋が待っている」
小さな子供が誤って手を離した風船のように
空へ向かって高く飛ぶ日が来たら
私は自分が染めた色をさらに濃くしていきたい
誰かの好きな色になったと知ったら
その人を大切にして
その幸せを鳥に割られないように高く高く飛ぶ
無垢な子供のように『自分色』を見つけたい
まっさらな状態の心という名のノートに
正しいものと悪いものを7対3の割合で書き留めて
もっと自由にやりたいことをやっていきたい
「放課後の制服デート憧れてるんだよね」
そう言ってキラキラした眼で俺を見つめる先輩。
(俺だって憧れてる。先輩となら)
と思いつつも「そうなんすね」と軽く返す。
「そんな態度取らなくてもいいじゃん」
「いや、別に」
「もしかして照れてるの?」
赤らめた頬をマスクで隠してるのに
泳いでる目は気持ちをバラす。
「照れてないし」
「うそー!だったら、絶対やろー」
ニヤつく顔を誤魔化すために俺はぶっきらぼうに
「はい、行きましょう。放課後、映画で見ませんか?」
と勇気を出して言ってみた。すると、
「映画見たい!私さ、傲慢と善良が気になってて。
ストーリーも面白いと思うんだけど、藤ヶ谷くんが好きで」
(おい、そっちかよ)
と軽くため息をつき、
満面の笑みで「俺は恋愛映画が好きなんですよ」
と軽く嘘をついた。
すると、先輩は「可愛い」と言って俺の頭を撫でた。
平日の水曜日の夕方にもかかわらず
映画館はカップルと女子高生で溢れていた。
水曜日の今日はレディースデーだから女性客が多い。
先輩の何気ない一言から出た俺の提案が功を奏した。
話題の小説だから、
読書好きの友人から勧められて読んだことはある。
まさか、先輩が藤ヶ谷ファンとは思わなかった。
だって、俺はあんなにカッコよくねぇし。
映画を見てるときの先輩は登場人物に感情移入してる。
それくらいこのストーリーが好みなのだろう。
眼をキラキラさせたり、頬に涙が伝ったり。
「映画、面白かったね!」
「そうっすね」
「まさか、あの展開で終わると思わなかったな」
「俺も、です。見入っちゃいましたよ」
「それな!翔太くんの前で言うのは悪いけど、
藤ヶ谷くん、めっちゃカッコよかったなー」
「そう、ですね」
「あっ!ごめん。そんなつもりじゃなかった」
「いいっすよ、気にしなくて。
それより、そこのクレーンゲームで欲しいもの取ってあげます。俺、得意なんで」
「えっ!悪いよ」
「全然いいですって。どれがいいですか?」
「うーん。お言葉に甘えて、あのちいかわのクッション」
「はい、かしこまりました」
俺は1000円をかけて先輩のリクエストに応えた。
先輩は「今日から抱き枕にする」と言って
とても嬉しそうだった。
初の放課後の制服デートの締めは
先輩からのお礼で撮ったプリクラに映る、
俺の頬にキスをしてる乙女な先輩だった。