どうして 保留…
君と一緒に
君と一緒に、いろんなことがしたい。
大好きと言っていた近場の砂浜海岸に行くこと。
家で二人きり、映画を見ること。
互いの声を聞いて、心を温めること。
「ねぇ、一緒にしたいこと、ある?」
冷たくなった彼女の頬に手を当てふと尋ねてみる。返事がないことなんて、頭の悪い僕でもわかる。
「いっしょに、したいこと…あった?」
美しい世界を見せてあげたかった。
一緒に笑って、悲しんで、あたたかくなりたかった。でも、もうそんなことなんてできない。
最後に僕の家で育てたシオンの花を一輪、棺の中に入れた。
「忘れないからね」
君と一緒に、なんて嘘。
僕はいつでも、独りぼっち。
変わらないものはない 保留…
ゆずの香り
近所の農家の人からゆずを貰った。おばさんは、余り物なのよ、なんて言いながら微笑んでいたけれど、今日が冬至だということをわかっていて、私に差し入れてくれたのだと思っている。
私は普段、蜜柑など、柑橘類の食べ物を食べない。
おばさんは、ゆず湯にでもどうぞ、と言ってくれた。仕事が忙しくて風呂に浸かる余裕もないことさえも見抜いているのだろうか。こうも長く付き合いを続けていくと、色々なことがわかるようになっていくのだろうかと考えたら、なんだか、人間は不思議だ、と思う。
家に帰ると、まだ皮を剥いてすらいないのに、ゆずの甘酸っぱい香りが部屋の中に広がった。
いつかの歌人が、蜜柑の香せり冬がまた来る、と詠んだように、おばさんからゆずのおすそ分けを頂くと、冬の香りと言うのか、冬だ、という気分になる。
ゆずは蜜柑ではないけれど、あの甘酸っぱい匂いには似たような、親子の匂いがする。
実も美味しいけれど、最後まで楽しめる果実だ、なんてことをふと考える。ゆずの皮を湯船に浮かべると、大海原に浮かんだ孤独の船みたいで、なんだかとても面白い。
今日は久しぶりに仕事が休みだ。久しぶりにゆず湯に浸かって、のんびりと冬を越すことにしよう、と考えた。
来年もまた、あっという間に終わってしまうのだろうか。早くも来年のゆず湯のことを考えてしまった。
冬の夜、雪がしんしんと降る田舎の夜の一幕である。
大空 保留…