「好きだったひと」
諦められなかった三年間。
会うのが怖い一方で、数十秒でも会いたかった。
あの子を見るあなたの視線に、胸を痛めるとわかっているのに。
あなたの想いが叶わないことが苦しい。
そして、私の想いも叶わないと思い知る。
それの繰り返し。
前進しない恋の連鎖。
諦めれば楽になれるとわかっていたのに。
やっぱり私とあなたは似ている。
諦めが悪いところさえも。
このままではいけないと、会わないと決めて、忙しいふりをして、物理的に距離を取った。
忙しいふりが本当の忙しさに変わり、気がついたら季節が巡り数年。
あなたのことを考える暇なんて無くなってしまった。
ちらりと覗いたSNSで、近況を知った。
あなたはあの頃のまま。
あなたは今でもあの子のことを見ている。
私が捨てたあの頃の気持ちを今でも持っているあなたが、眩しい。
どうか、あなたの想いが届きますように。
────失われた時間
「これは君が望んでいること」
ずっとこのままでいたいと思っていた。
ふたりの関係も、お互いを思う気持ちも、ずっとこのまま変わらないと信じていたんだ。
だけどいつの日か、変えたいと思い始めてしまった。
もう、ただの幼馴染という関係では嫌だ。
友達という関係のままでは嫌だ。
そう思うようになってから、少しずつふたりの視線がズレていった。
君はずっと変わらないことを望んでいる。
この先何年経っても、ずっとこのままでいよう、と君は言う。
だからまだ、俺はあの頃と変わらないフリをしている。
君はそれが気に食わないようだ。
怒られる筋合いはないなぁ。
君を女の子扱いしないのは、半分は君のせいだ。
俺に女の子扱いされたいと思うなら、その理由をちゃんと考えてほしい。
ずっとこのままでいたいと、逃げたりしないで。
────子供のままで
「ずっと言いたかったことを、今」
「しばらく行けないだろうから」
そう言って、子供の頃によく遊んだ河川敷を歩く。
会いたくなくても会える。
そのことが、どれほど幸運なことか。
もうすぐ、君に毎日会えなくなる日々が始まる。
耐えられるだろうか。
ふたりの関係も、この心も。
幼馴染という関係も、一番の友達という関係も、今日で終わりにしたい。
「近過ぎて届かないことってあるんだな……」
言うつもりがなかった俺の独り言。
泣きそうな顔をしている君に、息を呑む。
懐かしい風景は、気持ちをあの頃に戻すのだろう。
何も言わなくても思いはひとつだったあの頃。
成長するにつれ、言わなくてはならないこと、言わない方がいいことが増えて、本当に言いたいことだけが、どうしても言えなくなってしまったんだ。
だけど、今なら……
「ずっと、ずっと言いたかったことがあるんだ」
今言えなかったら、きっと一生後悔すると思った。
────愛を叫ぶ。
「蝶のように舞う、あいつ」
ひらひら。ふわふわ。へらへら。
あっちへ行ったり、こっちへ来たり。
捕まえようとしても、ひらり。
確信を突こうとしても、ひらり。
花畑を舞うような、あいつ。
ひらひら。ふわふわ。へらへら。
あいつは誰にも本気にならないの。
誰もあいつの口説き文句を本気にしてない。
ただ、あたしだけが、あいつに手を伸ばしてる。
────モンシロチョウ
「いつかふたり離れる日を」
こんなにうまくいってるのに、いつか離れる日が来ることを想像してしまう。
「恋愛において、男は名前をつけて保存、女は上書き保存」などと言われるが、もしも君と別れたら俺は何重にもバックアップを取って永久保存するだろう。
君と手を繋ぎながら考えることじゃないけど、いつか君が俺の手を振り解く日が来ることを想像してしまう。
そして、他の誰かのものになってしまうところまで。
いまだに君が俺を選んだことが信じられなくて、これは現実ではないのかもしれない、と時々本気で思う。
君が微笑むたび、あとどれくらいこの笑顔を独り占めできるのだろうか、なんて考えてしまう。
いつか別々の道へ進むことになっても、俺は驚かない。
君が俺のことを忘れてしまったとしても、俺が覚えているからいいんだ。
ただ、欲を言えば、最期のときに「もしもあの人と一緒になっていたら、今ごろどうなっていたかな」と、俺のことを一瞬でも思い出してくれたら、それでいい。
────忘れられない、いつまでも。