喉の真ん中がきゅっとなる
頭が熱くなり神経が乱れる
今にも吐き戻しそうだ
しかし''それ''が許さない
力があれば なんて譫言も
貴方のせいだなんて戯言も
助けて欲しいなんて独り言も
鬱血した体に、嫌になるほど溜まってゆく。
やがて言葉にならなかった感情は
昇華されることなく蔓延ってゆく。
[言葉にならないもの]
期待された言葉
成し遂げた目標
ほめられた事柄
虐げられた記憶
喜んでくれた顔
悲しませた人間
全部過去のこと
執着せず強く生きるしかない
自分自身を守るためには
それしかないと思うから
[今を生きる]
車から降ろされてベビーカーに積まれる私
陽射しが強くて、屋根を広げてくれと訴え泣く。
慌てて母親が日陰を作ってくれた
それでも眩しくて、眩しくて次第に目が覚めた。
起きたそこは親が選んでくれた日当たりのいいワンルーム
快適も不快も親が用意したものだと思うと
なんだか恥ずかしくなり、
せめてもの反抗にカーテンをしめた。
[真昼の夢]
愛用の虫取り網を片手に、
僕は草と土の匂いの中を駆け回った。
顔にかかる蜘蛛の巣を払って、
草に足を取られ、転びながら探検する。
こめかみやら鼻先やらを通って顎に汗が流れる。
唇がなんだかしょっぱい。
夕暮れ。
涼しい風が木々の間を通り、雨の匂いがしてきた。
そんな中ヒグラシが静かに鳴く。
カナカナと鳴る林の中に包まれた
かごの中の一匹のセミは、
場違いにもミンミン鳴いていた。
「もう帰るから逃がしてあげる」
手の中で小さなセミは震えていた。
あぁ、怖かっただろう。
仲間はずれにさせてごめんね。
夕立の降る林の中で、
セミの声がパタリと止み、
葉が水を弾く音だけが聞こえる。
僕はとうとう一人ぼっちになったことを知った。
[夏]
目に入るもの全て煌めいていた
私は、それらを愛していた
けれど、近寄るほどに
醜く、汚いことを知った。
近付いてしまったから
知ってしまったから
輝きは失われた。
[あの日の景色]