俺が貴女の庵に押し入った時、あなたは誰ですか、と貴女は尋ねもしませんでしたね。金と飯とを求めた俺に対して、金はありませんが、もてなしはできます、上がっていきなさい、と落ち着いた声で勧めてくださいました。
もっとまともな形で貴女と出会えていたら、貴女は改心した俺を旅に出したりせず、そのままお傍に置いてくださっていたでしょうか。悔やむことは多いですが、いずれにせよ、貴女に出会えたということだけで、俺は感謝すべきなのでしょう。
俺は字を書けないので、貴女に手紙を書くことはできません。
もちろん読むこともできないので、貴女から手紙をいただいても、大事に大事にとっておくことしかできません。
けれど、例え読めなかったとしても、貴女からの手紙をなくすことなどないでしょう。あの手紙の行方はどうなったかと貴女が思い巡らす必要は、絶対にないのです。
ああ。もう俺には身体がないので、そんなことは、いずれにせよ、叶わないのですが。
貴女の魂の輝きに、どれだけの人が惹き付けられてきたことでしょう。
貴女の魂は美しく、高潔で、人を明るく照らします。
今世の貴女がどれだけ否定しようと、その輝きが衰えることはありません。
そう諭すと貴女は、でも私はその魂に恥じるような生き方しかしていないのです、と自責されますね。
そんな風に考える必要はありません。
貴女はきちんと、自らの魂の声を聞くことができます。
今は只、惑っているだけです。
大丈夫。貴女は、貴女の人生を生き始めればいいだけなのです。
時間よ止まれ、などと願う必要はありません。
先が不安であっても、今が至福であっても、その瞬間に留まろうとする必要などないのです。
貴女は大丈夫ですよ。
俺たちも、貴女を愛する人も、皆貴女を応援しています。
貴女がこれからも人生を歩んでいくのを、見守っています。
貴女の声がする方へ、俺はいつだって引き寄せられます。
貴女の温かい、明るい、嬉しそうな声。
それを聞きたくて、それに浸っていたくて。
俺は只、貴女のそんな声を聞いていたいのです。