今までに、綺麗な虹は数回見た。
それはいつも、母と一緒の時だった。
いつかの将来、隣にいるであろう大好きな彼と一緒に見たいなぁ。
『君と見た虹』5
部活終わりの、暗い学校の帰り道。
空を見上げると光る星を1つ見つけた。
指を差しながら、帰りが一緒の友達に「一番星」って自慢げに言ったら「あそこにも星あるよ」って返された。今日は月は見当たらなかった。
星は、沢山の人から綺麗って言われる。
私も綺麗って言われたいから「星になりたい」って零したら、「呼吸できないよ」って返された。たしかに。
『夜空を駆ける』4
地面の奥深くに埋めた大事な手紙。
眼の前のことに夢中だった小学生の頃の自分。
夢、思い出、好きな人への思い、沢山の気持ちを込めた手紙。1枚の薄い紙に、どんな思いが詰まっていただろう。
いつ探しに行こうか、明日、来週、来月、来年、再来年、何年も先。
動かない瞼に、乾いて痛む唇。手の痺れる感覚は全身に伝わってくる。耳元で一定のリズムを刻む、聞き慣れた機械の音。
今日は体が重い。懐かしい記憶を掘り起こすのはまた今度。
『手紙の行方?』3
今日は、なんだか普段より眩しい。
外の景色がよく見える席で、太陽の日差しが直接顔に降りかかっているからだろうか?
いや違う、これは。
そっと顔を上げ、目の前に静かに佇む人物を見つめる。
最近伸ばし始めたらしいとげとげの髭から、唇、鼻、つぶらな瞳、まつげ、細いまゆ。そして僕を強く照らしていたのは……
すべすべの肌で優しく太陽の光を受け止める、先生のつるりとした頭だった。
『先生の輝く頭』2
私のクラスには、かっこいい男の子がいる。
積極的に話すような性格ではないようで、クラスメイトと話が盛り上がっているところはほとんど見ない。それでも多くの女子たちが毎度の休み時間に話しかけに行く理由はやっぱり顔の良さだろう。センター分けの前髪に、髪が長くて邪魔なのか後ろはハーフアップで結んである。
男子にしては珍しい髪型だ。私も、彼を取り巻く女子たちと同様に彼のキリッとした目つきや整った顔すべてがまぁ、刺さる。どタイプである。近くでその顔を間近で見たいものだけど、人見知りのため話しかける勇気がない。話しかけるタイミングもない。
恋人になりたいとかいう気持ちは無いし、同じクラスメイトとして遠目から見れるだけでもラッキーだと思う。
それにしても今日は普段に比べて一段と周りからの甘い匂いが強い。
2月14日、思いを渡す相手なんていないので、私が持ってきたのは友チョコ2つ分と、休み時間につまむ用のクッキー少しだけだ。この匂いでは、お菓子持ち込みが良いとしても授業には集中できないじゃんか。
「ねえ、ーーさん聞こえてる?」
聞き慣れない声に、パッと顔を上げる。いきなり私の前に現れたその人は、さっきまで女子に囲まれていたはずの人気者くんだった。いつのまに、てかどうして私の前に?
「今日、俺日直なんだけど。日誌まだ持ってる?」
あ、そうだった。出席番号で、私が1つ前の番号。1週間ごとに集められるそれは、書き忘れがあると担任に呼びつけられ、ねちねちとしたお叱りを受ける。
言ってくれなければ彼が危ないところだった。
「ごめん今すぐ渡す、机の中に確かあったはず……あ、」
パサッと小さな袋が落ちた音。謝りながら机の中を探っていた時、そこに置いていた友チョコの1つが飛び出してしまった。落ちたチョコを人に渡すのは気が引けるな。そう思いながら拾おうとすると、もう一つの影が袋をつかむ手に重なり、持っていかれた。
「ありがと、ってえ、あの何をしてらっしゃる?」
私が拾うより先に取られたそれを見つめるイケメンくん。袋のチョコをぶらぶら揺らしながらと私を交互に見つめて、無言のまま。その表情がにやっとたものに変わる。
「バレンタインとか、興味無いんだと思ってた。いつも読書ばっか。好きな人でもいんの?」
サラサラの髪がふわっとなびく。机の上に袋が置かれる。
「いない、けど。それ友達のだし」
「俺にくれない?これ。腹減った。」
はい?そんな自分勝手な、友達のだって言ったよね。それに、クラスの子から沢山貰っているでしょうになんでこんなのを欲しがるのこの人。
「実はきみのこと前から気になってたんだ。ね、だからいいでしょ?」
にこにこと笑ってこっちを見つめている彼。いや、どういう理論?胡散臭い顔からして絶対好きとか嘘なんだけど、断らないといけないけど、なにせ顔がいい。良いよと言ってしまいそう。
「無理、それ友達に渡すようって言ったでし「いやいや、拒否権ないからこれは今から俺の」
顔はいいのにこんな最悪な性格だったなんて。
時間よ、少しでいいから止まって。1回この男を殴るチャンスをください!
『時間よ止まれ』1