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12/6/2025, 9:40:24 AM

窓の灯りの一つ一つに
温かな晩餐が有るのなら
玄関の灯りの一つ一つに
出迎える声が有るのなら
光落とす足跡の一つ一つに
寄り添う温もりが有るのなら
星降る夜の一つ一つに
祝福の祈りが有るのなら

‹きらめく街並み›


炎に水に晒してみても
黒光に白光に照らしてみても
何にも読めない便箋が
綺麗に畳まれ封筒へ
その時が来れば分かるからと
大事に封され箱の中
案外早々のその時に
意味を初めて知ったけど
手紙を読めないままの方が
きっときっと幸せだった

‹秘密の手紙›

12/4/2025, 8:47:12 AM

酷い雷が鳴り響く夜に
雪が降るかしらと窓を見る
酷い風が吹き付ける朝に
雪が降るかしらと戸を開ける
酷い雨の撃ちつける昼に
雪が降るかしらと外に出る
酷く酷く寒くて寒くて
一片も動けないような痛みの中で
雪が降った事を知る
冬が来たことをやっと知る

‹冬の足音›

12/3/2025, 3:46:34 AM

サンタさんサンタさん
女の子にプレゼント
ドレスに靴に立派な馬車
娘はそれで喜んだと
女の子女の子
招待状もお城もないのに
お家も帰る所もないのに
女の子女の子
か弱く儚くそれでも強か
ドレスを火に焚べ
ガラスに雪を
南瓜もネズミもぶち込んで
女の子女の子
マッチ売りの女の子
美味しくないけど最後の晩餐
かもしれないけどマッチの火
一晩だけは温かい
一刻だけは温かい

‹贈り物の中身›

12/1/2025, 11:00:46 AM

夜空色のアイスキャンディ
輝く星がパチパチ弾けた
凍空のアイスキャンディ
張り付く舌がビリビリ千切れた
深い深い夜のアイスキャンディ
腹も心も芯から冷えた
美味しかった筈のアイスキャンディ
いつからいつからしんどくなった

‹凍てつく星空›

12/1/2025, 9:48:13 AM

「昔々あるところに」
「おじいさんおばあさんおりまして」
「ある日おばあさん川へ」
「全て飲み干し」
「おじいさん山へ」
「軒並み更地」
「昔々あるところに」
「おじいさんおばあさんおりまして」
「大層大層力の強い」
「おじいさんおばあさんおりまして」
「桃食べ猿食べ犬食べ鳥食べ」
「鬼食べ島食べ宝も食べ」
「そうしてそうして」
「世界は平和」
「それがそれが」
「いつかのはなし」

‹君と紡ぐ物語›


風鈴を壊してしまった
寒くなったから仕舞おうとしたのだ
薄い硝子に花火の咲く
可愛らしい風鈴だった

水琴鈴を壊してしまった
汚れてしまったから洗おうとしたのだ
金色の球に桃白を水引く
可愛らしい水琴鈴だった

 鈴を壊してしまった
怯えていたから守ろうとしたのだ
黒く長い髪に薄赤い頬の
可愛らしい子供だった

‹失われた響き›


赤い間に細かく細かく
白が入っているお肉は美味しいのだと
薄白い粥を啜りながら
おじいさんは懐かしげ
黒い土瓶に温かな
茸とお出汁が香りいいのだと
乾いた野菜を食べながら
おばあさんは深々ため息
今しか知らない私には
あんまり意味がわからなかったけど
赤い地面に霜が降る
黒い身体から湯気が出る
こんな光景だったのかしら
美味しそうには見えなかったけど

‹霜降る朝›


例えば眠りから覚める瞬間
夢中な本を閉じた直後
ふと現へ還るまでの一瞬
例えば山の頂に届いた時
全力掃除から顔上げた時
ふとピントを合わせる一瞬
身体が呼吸を思い出す

‹心の深呼吸›


私の右腕は母からの
左足は父からの贈り物
私の記憶は祖母からの
知識は祖父からの貢物
私の声は姉からの
両目は兄からの願い事
私の肺は妹からの
胎は弟からの捧げ物
継いで剥いで私の事
血統も歴史も私の事
いつか誰かに逢えるまで
ヒトのカタチの時止箱

‹時を繋ぐ糸›

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