しろくほそい指先に
あおい花弁をそっとつける
爪紅みたいときみはずっと
てをひろげて笑っていた
しろくうすい唇に
あかい花弁をなすりつける
口紅みたいときみはずっと
かがみをのぞいて笑っていた
しろくかたいなきがらに
たくさんの花弁をふりちらす
花畑みたいときみのこえは
もうえいえんにきこえない
‹ひとひら›
フィルタを一枚透かしたら
花畑へ駆く子供がいて
フィルタを一枚透かしたら
ケーキに夢中な男がいて
フィルタを一枚透かしたら
夜空で歌う女がいて
フィルタを一枚透かしたら
軒先眠る毛玉がいて
フィルタを一枚透かしたら
平和じみた世界があって
フィルタを一枚透かしたら
夢見たような世界があって
フィルタを一枚透かしたら
フィルタを一枚透かしたら
‹風景›
君が右を指したら
僕は左を指す
君が黒を取ったら
僕は白を取る
君が空を描いたら
僕は地を描く
君が誰かを選んだら
僕は誰も選ばない
君が僕を選んだら
僕は君を選んだろう
けれど君はいってしまったから
君がいってしまったから
僕は
‹君と僕›
弓弦を引く
放つ先、真っ直ぐな軌跡、
それが一度で的を射なくても
繰り返した修練が実を結ぶなら
或いは、
銃で火薬の助けを借りるか
長槍の力で以て突き通すか
小刀で懐に飛び込む速さか
生は
手段を選ぶ暇などないのだから
過たず
欲した未来を掴み取る貪欲を
‹夢へ!›
青空に
旅立つ君の
背を仰ぐ
追い付く年月
手紙未だ無し
‹元気かな›
君が隣りにいた頃は
ひとを愛するは簡単で
君が行ってしまってから
ひとを覚えるが難しい
けれどいつか君が帰るとき
いっとう優しいひとの元に
いっとう幸せな子と生まれるなら
君が帰ってくるまでは
君が生まれてきた後も
ひとを愛せる人たれと
優しい人であらねばならぬ
‹遠い約束›
「紫陽花の花って実は花じゃない部分じゃん」
「有名だよね」
「花びらって受粉の虫の為の目印じゃないの」
「それは諸説ある」
「…交尾自体は植物間のみってことは、
花びらと虫って実質勝負下着と当て馬間男では」
「情緒の殺害記録更新すなー」
‹フラワー›
いつもの横断歩道
を通り過ぎて
たまに行くお店
の角を曲がって
初めて通る川沿い
を真っ直ぐに
入れなかった門
をくぐって
紅白を飾る玄関口
で新しい靴を履いて
今日から新しく一年生
の切符を手に胸張って
‹新しい地図›