寒がりな友人がいた
いつも寒い寒いと言う割に
薄くて硬い生地を重ねるばかりだった
もっと暖かいの着ればと
ショーウインドウを指したが
友人は首を振った
編まれている系のがトラウマなのだと
さては手編み系プレゼントの
凄まじいブッキングでもしたかと
からかい混じりに言えば
前半だけは正解と白い溜息
自然にしかし突然冷たい指先が
久し振りに寒風に晒した首を掴んだ
「所で随分ばっさり切ったようだけど」
「何かあった、イメチェンかい?」
‹セーター›
「今更星を落とした所で
既に立った舟の行く先は
とっくに変わりはせんよ」
「喜べよ馬鹿共たった今
お前等は全ての人々の勇敢を
無意味な不帰還の旅にしたのさ」
‹落ちていく›
別に言わなかったのは大差無いと思ってたからで
それがあろうとなかろうと何も変わらなかったからで
それは多分君と私で同じように思ってたからで
ここに仰々しい名前を付けたくなかったからで
でもしきに口出す権利が無かったってこと
もっと早くに気づいてればよかったね
‹夫婦›
褒めて欲しいだけなのに。
‹どうすればいいの?›
この世で一番価値のあるもの
この世で一番大切なもの
ソレが自分の命なら
大事な人の人生なら
こんな吹けば飛ぶような
酷い軽さなのはどうしてか
‹宝物›
「蝋燭って命とか寿命の代名詞な訳だけどさ、
本当に"ソレ"吹き消して良いと思う?」
「昨日までの俺にサヨナラしなきゃ
今日の俺には成れんだろ」
「成程ソレも一理ある」
「もういいだろ、腹減った」
「そうだね。ハッピーバースディ"俺"、良い終末を」
‹キャンドル›
アルバムを出さなくても
日記帳を捲らなくても
ずっと年老いても
全部分からなくなっても
それでもそれでも覚えているよ
君と過ごした長い時間を
‹たくさんの想い出›
寒くなると僕は消えて
そうして私になる
喜ぶひともいるし嘆く人もいるから
ちょっとだけの日もあるし
たくさんの日もある
少しゆったりの日もあるし
ずっとばたばたの日もある
いろんな形があるけれど
ぎゅってされたらもうわからない
私の名前は
‹冬になったら›