田んぼ、川、盃、田んぼ、茶釜、馬ノ目
「暇だねえ」
蛙、川、茶釜、田んぼ、川、盃
「まあ、暇が一番でしょ」
田んぼ、田んぼ、川、盃、田んぼ、茶が……
「あっ」
「あっ」
「あーあ、やっちゃった」
「もー。だぁれ、輪廻切ったの」
釜割れ、杯砕け、崩田、血河、荒馬、蛙毒、
「人間ってば、争い事が好きねえ」
「また運命ほどくとこから再開じゃん、めんど」
<平穏な日常>
「何で鳩?」
「先輩から借りてきた」
白く柔らかな羽毛は本物のようで、
加えた葉付きの枝がどこかコミカルで、
割れた硝子目が妙に不気味だった。
「手品の種だって」
「そんなの飄々と人に預けて良いの?」
「先輩が渡してきたから良いんじゃない?」
ビーズ入れから青球を二つ、
「黒じゃないの?」
「指定入った」
割れと罅入りの黒硝子を外して、てきぱき縫い付け、
「はいおわっ……おお?」
「どうし、て、ええー…」
修復された筈の鳩の縫いぐるみは、机の上でちょんと自立し、そうして翼を広げ窓から飛び立って行った。
「手品の種……?」
「いや普通に綿の感触したよ……?」
先輩からの返事は『付喪神って知ってる?』の
一言だけだった。
<愛と平和>
「やぁ、元気してたかい」
「元気に見えるなら目が腐ってるな」
じゃらり鳴る鎖の拘束、無骨な鉄柵の向こう。
強い眼差しが爛と刺さる。
「早く吐いてくれれば出してあげられるのにさぁ。
強情って言っても程度があるでしょうよ」
「知らんと言ってる」
「『君が知っている』ことを僕が知ってる」
「………」
「だんまりはいい加減飽きたよ?」
蹴り付けた金属音が不快に鳴り喚く。
肩を揺らすことも、視線を外すこともなく。
「……今日中」
蹴り付ける。そんなことで柵も錠も壊れはしないのに。
「明日になったら、聞いてあげられるのは
晩餐のリクエストだけだよ」
「……は、そりゃいい」
一度だけ空気を食んだ唇は、当然弧を描いていた。
「お前の五月蝿い舌でシチューでも作ってくれ」
「それは、」
「お前らのとこじゃあ人食いは地獄行きだったな」
「……そうだね」
そしてそれは、貴方の所では愛の証明だった。
憧れるよな、と月の下で笑っていた貴方を、
その手の暖かさを惜しんだことを。
貴方の元に居ることを、日常にしたかったことを。
「考えておくよ」
「じゃさっさと行けよ。忙しいんだろお偉いさん?」
端から手に入れることの出来ない幸福を踏み潰して。
「……じゃあね『リーダー』」
「クソ喰らえよ『新人』」
<過ぎ去った日々>
「結局さ、通貨って同文化圏内でのサービス引換券な訳じゃん」
「急にどしたの」
「ほら彼処のケチ坊主」
「あ?あー……恨まれ過ぎてて駄目だねぇアレ」
「地獄の沙汰も金次第、とか。せめて地獄の通貨持ってきてから言ってほしいわ」
「それ一回地獄渡りしろと同意ー…。まあ、だから救済措置に善行とか感謝とか祈りとか数えるのにねぇ」
「割と露骨に伝えてる筈なんだけど、もっと分かりやすくないと駄目なのか?つら」
「うーわお仕事お疲れ。ハグる?」
「ハグらせてマジ」
「本っ当お疲れ様じゃない…。おいでおいで、転生まで頑張ろーね」
「がんばる……」
<お金より大事なこと>
「夜道に気を付けろって脅し文句有るじゃん」
「あるねぇ」
「何で明るい日が前提なんだろ?」
「相手から見えないけど、相手も見つからないからじゃない?」
「そっかー。真っ暗な日にやってくれたら狩りやすいのになぁ」
「そうだねぇ」
「其処の君に言ってるんだよ」
<月夜>
あまり良い意味ではなかったんだよ、
指同士を繋ぐ色糸を辿って彼は言う。
人を結ぶ暖かさじゃなく、
家畜を繋ぐ綱だったのだと、
糸の先の私に言う。
貴方と私、畜生はどっちだったのかしら
分かっていて私は問う。
随分と高評価なんだね、
溜め息を付くように貴方は答える。
赤とは反対色の糸に繋がる、
貴方と私の定めを嗤う。
<絆>
ハイネックのシンプルワンピ
マキシ丈のスカートと幅広ベルト
帽子とネイルはお揃いデザイン
警察も好奇の目線も知ったことか
反物の色もモチーフも全部計算ずくに
現代の着物スタイル、最前線は此処なのだ!
<たまには>
「それ俺に聞く?」
「何か色々意味出てきてややこしい」
「あー……取り敢えず、まあまあ一発でヤバイの以外はあんま気にしなくて良いと思うぞ」
「一発?」
「明らかにクソ高い奴とか、指輪とかリボンとか」
「装飾も駄目なんだ?」
「違う違う『プレわた』って奴」
「……………リアルにいるの?」
「居るんだわコレが……」
「こわ……戸締まりしとこ……」
「素直に菓子とかで良いんじゃねえの」
「マシュマロは『嫌い』って知って泣いた」
「多分商売のアレだから深く気にするな……」
「で」
「良いのかコレで」
「良いんだよコレで」
「いや好きなモン選べるのは良いっちゃ良いんだが」
「何だよもっと喜べよデートだよ」
「……成程確かに」
<大好きな君に>