・きらめき
キラキラと輝いて見えていたあの子がもっと綺麗に映って見えるようになったのは、夏休みが明けた直後のことだった。
噂によると、どうやら彼氏と別れたらしい。
一学期の頃と大差ないように見える振る舞いと、それに隠れされてるであろう幾つもの感情が、より一層彼女の魅力を引き立てたような気がして見えた。
振ったか振られたかは分からない。
どんな理由で別れたのかも知らない。
私がそれらを知る日なんておそらく一生来ないだろう。
けれど、今まで以上に綺麗になった彼女を見て、あの子が彼氏と別れてくれて良かったと思ってしまったのはここだけの話だ。
・些細なことでも
証拠集めは不十分。だからまだ一緒にいるの。
貴方はいつも通りに振舞っているつもりでしょ。
でもこんな物を集めるずっと前から気づいていたんだから。
助手席の背もたれ。
今までと違うタイプの靴。
普段と違う食べ物。
友人とか興味とか紹介とか、そんな言葉でごまかせないんだよ。
どうぞいくらでも私のことを鈍感だと思い込んでいてくださいね。
貴方の蒔いた些細な不和が、貴方の首を締める日を心より楽しみにしております。
・心の灯火
あなたにとってはなんて事ない言葉だったなかもしれない。
それでも私にとっては唯一の希望で救いだった。
だから今まで頑張って来れたのに。
今はあなたのその言葉が絶望に感じるほど苦しくなってしまった。
駄目ね。やっぱ燃料は慎重に選ばないと。
じゃなきゃあなたごと燃やす羽目になっちゃったから。
・開けないLINE
2桁の数字がアイコンの横に並んでいる。
己の怠惰が原因なのは分かっているが、それでもたった1回のタップさえ後回しにしてしまう。
いっそ通知を消した方が早いのは分かっているが、なけなしの良心がそれを止めている。
……まぁ、それが余計にアプリを開く気力を奪っているのは確かだけど。
そうこうしているうちに通知の数字がまた1つ増えてしまった。
早く見た方がいいのは百も承知なんだけどなぁ。
「……急ぎのようなら通話で来るか」
今日も言い訳を呟くと、いつものようにYoutubeを開いた。
・不完全な僕
コイツは言葉が上手く喋れない。それどころか私が何を言ってるかも分かってない。
身体の作りも違うせいで歩き方も変だった。
オマケに皆が当たり前に出来ることが何一つできない。
しかしコイツは主である私への忠誠心が誰よりも大きかった。
「ご飯だよー」
毎日律儀に献上品を差し出す僕(しもべ)は今日も変な言葉を言っている。
全く。たまには私と同じ言葉を喋ってほしいものだ。
「今日もうにゃうにゃ言いながら食べてるなぁ。そんなに美味しいのかな、これ」