よくさ、夜明け前が一番暗いとかいうじゃない?
ああ、聞いたことあるね。コロナが猛威振るっていた時とか。
何かの比喩っていうか、ことわざなのかなぁ。
明けない夜はない、みたいな。
うん、ーーあれほんとかどうか、確かめない?二人で。
え? 早起きするの? 明け方窓辺で見張って?
君意外と研究肌なんだねえ。
ん、まぁ……そういう自由研究みたいなのじゃなくてさ。
? こんど明け方の空の観察しようってことじゃないの?
…できれば継続的に、というか、これって俺たちの人生についての話、なんだけど。
伝わってる?
??
「って言う具合に、あなたのお父さんからのプロポーズはそれはそれはひどく分かりづらいものでした。
だからあなたは若いうちから国語をしっかり勉強してほしいと思うの」
そう言って笑う母は今でも父とラブラブな夫婦だ。
#夜明け前
本気の恋なんて、カッコ悪い。
そう嘯いていた彼が、本気の恋をしたらしい。
この夏休み、田舎に帰省したときのこと。
おばあちゃんちに身を寄せたのだという。そのおばあちゃんは、海の家を夏の間だけ営んでいて、手伝いがてら顔を見せてこいと父親に言われ出かけた。
最初は気乗りしなかった。でもまぁばーちゃんもバイト代、弾むよと言ってくれてるし、まあいいかあと思って。
そしてそこで出会ったーー彼女に。
地元の子だという。おばあちゃんと顔見知りで、夏に海の家をオープンするとこんにちはー!と毎日のように元気にやって来る。アイスちょうだいと言って、保冷庫から選んで美味しそうに食べては海へ入っていく。
店が忙しそうなときにはたまに接客の手伝いをしたり、暇なときにはおばあちゃんの話し相手をしたり。
日に焼けた笑顔が眩しい子。
彼が初めてお店の手伝いに出たとき、彼女はへえ、あたしと同い年なんだと笑いながら
「よろしく、ーー白いね?」
と言ったという。
俺、初対面で白いなんて言われたの初めてだったよ。
二学期、教室で再会した彼は笑って教えてくれた。
そんな彼もうっすらいい色に焼けていて。
楽しそうに、その子のことを話すのだった。
ーー来年の夏の前に、またばーちゃんち、行きたいな…
海開きが待ちきれないみたいに、切ない目をする彼。
見たことのない顔を見せる彼を前にして、あたしは気づくのだ。
ああ、彼は本気の恋に出会ったんだな。
あたしの知らないところで。
そして同時に気づいてしまう。
あたしも、夏の終わり、本気の恋に落ちてしまったことに。
誰かに焦がれる、あたしを目に映していない、同じクラスの男の子にーー
#本気の恋