「翼なら持っていたんだ、ずっと昔から」
枯れかけた翼を触る、手は美しく細い。
「空も飛べたんだ、きっと昔なら」
弾んた声は小鳥のように高い。
「飛んだことは無かったけど、
そんな気がする」
言い訳を重ねる様に声は声は落ちる。
「けれど、もう遅い気がする」
翼を撫でる手が震える、
傷のない、柔らかな手が。
「羽も枯れて落ちたんだ、どこに行けると?」
重力に負けたその身では、
余りにも空は遠すぎる。
「それに飛ぶにはもう重すぎるから」
重いのは体か、それとも心か。
「飛べたんだよ、きっと昔なら」
言うその言葉だけが軽かった。
#飛べない翼
貴方と私は良く似ていました。
好きな物、嫌いな物。
食の好みから、好きな映画。
死生観まで同じで。
自分が嫌いな所まで良く似ている物だから、
きっと貴方が嫌いだったのですね。
今になってわかりました。
鏡合わせの様で、見ていられなかったのです。
今、貴方はどうですか?
きっと同じ様な物でしょう。
どうぞ幸せに。
そう祈らずに居られないのです。
鏡合わせの二人だから。
#あなたとわたし
諦めた日は雨の中を出かける。
傘を突く雨粒の音が柔らかく鼓膜を撫でる。
他にやり方はあっただろうか?
意味のない言葉が浮かぶ。
傘を捨てる、頭蓋に当たる雨がより聞こえる。
撫でるように水滴が頬をつたる。
考えばかりが巡る夜、
雨音だけが優しかった。
#柔らかい雨
鏡という物が嫌いです。
醜さを見せつけられるから。
愚かに思えて来るのです。
生きながらえてる私が。
時に消えたくなるのは、
虚ろな目が見つめるからか。
鏡の中の私が笑った。
哀れみの混じった、見下した目をしていた。
#鏡の中の自分
眠りにつく前に、貴方に伝えたいの。
昔に秋が好きだと言いましたね。
あれは貴方と歩く、紅葉に埋もれた街路が好きだったのよ。
歩幅の小さい私を貴方が合わせて歩く時の、
合わさった枯葉の踏む音が好きだった。
そういえば、映画が好きとも言いましたね。
あれは映画を見る貴方が好きだったの。
アクション物の時の熱が籠もった目と握り込んだ手。
コメディ物の時の細んだ目と笑い皺。
感動物の時の涙ぐんだ目とそれを拭う細い指。
目まぐるしく変わっていく貴方は、
どんな名作より面白かった。
貴方のお陰で好きな物が増えたの。
ありがとう、好きにしてくれて。
ありがとう、好きと言わせてくれて。
ありがとう、好きになってくれて。
ありがとう、一番好きです。
眠る前に言えて良かった。
おやすみなさい。良い夢を。
#眠りにつく前に