鏡という物が嫌いです。
醜さを見せつけられるから。
愚かに思えて来るのです。
生きながらえてる私が。
時に消えたくなるのは、
虚ろな目が見つめるからか。
鏡の中の私が笑った。
哀れみの混じった、見下した目をしていた。
#鏡の中の自分
眠りにつく前に、貴方に伝えたいの。
昔に秋が好きだと言いましたね。
あれは貴方と歩く、紅葉に埋もれた街路が好きだったのよ。
歩幅の小さい私を貴方が合わせて歩く時の、
合わさった枯葉の踏む音が好きだった。
そういえば、映画が好きとも言いましたね。
あれは映画を見る貴方が好きだったの。
アクション物の時の熱が籠もった目と握り込んだ手。
コメディ物の時の細んだ目と笑い皺。
感動物の時の涙ぐんだ目とそれを拭う細い指。
目まぐるしく変わっていく貴方は、
どんな名作より面白かった。
貴方のお陰で好きな物が増えたの。
ありがとう、好きにしてくれて。
ありがとう、好きと言わせてくれて。
ありがとう、好きになってくれて。
ありがとう、一番好きです。
眠る前に言えて良かった。
おやすみなさい。良い夢を。
#眠りにつく前に
夕間暮れのチャイムの音が聞こえる。
家路を急ぐ子供達が、騒々しく走り去っていく。
遠くの空は深い朱色に染まって、
反対には満ちた月が上る。
帰り道はいつも一人、急いで帰るのは、
夜への恐れか、待つ人への恋しさか。
歩いて帰ろう、待ち人は去り果てた。
思い出を抱える夜に風、襟を立て帰路につく。
遠くから子供の声が聞こえる。
#懐かしく思うこと
いつも通った道には、入ったこともない店や街路があった。
そこにもう入る事は無いだろう。
言いそびれた言葉があった。毎日会っていた筈なのに。
言えば何か変わっただろうか。
脇道に入る様に、ふと話せれば良かった。
今更となって遅いが。
さよなら僕の街、諦めと手を振った
あり得たかもしれない未来へ。
#もう一つの物語
光を見ていた。
真っ暗な部屋の中で、窓から見える月が。
果てもなく遠くて、余りにも美しくて、
とても羨ましかった。
どうか照らさないでくれ、
醜さを露わにされる様で耐えられない。
それはもう要らないから、
私にはもう要らないから。
影で見れるならいいよ、
暗がりにてお前の光が見れればいい。
お前みたいになりたかったよ、
優しい光で誰かを包み込む様な何かに。
そうなりたかったよ。
#暗がりの中で