遠ざかる景色に憂鬱を感じる。
過ぎ去って行くものに示す感情は無意味か。
故郷への郷愁も記憶の中の貴方さえも、遠ざかって行く。
痛みや慈しみも、悲しみや怒りも。
もはや朧気な思い出と成り果てた。
行くなと言えば良いのか、
それも無意味と知っていた。
口遊むのは別れ唄、別れは駅の車窓にて。
#行かないで
どこまでも続く青い空、雲一つないその青が、
酷く不快に思えたのは、私の卑屈が原因か。
あの青に見下されている様に思えて仕方が無い。
いっそ赤く燃えれば良い、この身すら焼ける様な、
燃える様な赤なら尚の事好い。
見下されるよりは、焼け落ちる方がマシだと、
自意識の勝った自分に酔って、
酔いを自責する自分に酔うのだ。
いよいよ救いのない日々だ。
いっそ、あの青に染めてくれ。
見上げた青空は深く青いまま、果てまで続いているように見えた。
#どこまでも続く青い空
衣を替えるように、心を変えた。
季節の変わり目には変わる程度の覚悟だったらしい。
雪が降るまえには逃げ出そう、
後を残さず、消えて行こう。
#衣替え
「あの葉はいつ枯れて落ちるのだろうか」
イチョウの葉を見て呟いた私に、
小さい声が横から聞こえる。
「秋の終わりには落ちるでしょうね、
気づけば空も高くなりましたから」
そういう君の幼い横顔には老木の様な、
終わりに近づいた時の諦めに似た、落ち着きが見えた。
君はイチョウの葉を見上げて続ける。
「イチョウは良いですね、枯れて落ちる時が一番綺麗で」
純粋な羨望に満ちた声が嫌に悲しかった。
「時期に声も出なくなるそうですよ。
自分の声だけは好きだったんですけどね」
ただ終わりを待つ君は枯葉に似ている。
「せめて声が枯れるまでに落ちれたら良いのに」
秋風が吹いて、薄く色付いた葉を散らしていく。
「あぁ、やっぱり綺麗ですね」
その通りだと、私もそう思った。
#声が枯れるまで
始まりはいつも、そういえばこんな朝だった。
何ともない、いつもの道が違って見える。
変わったのは私だけ、それだけでこんなにも美しく見える。
街路樹の葉色はこんなにも青々しかっただろうか。
空の青や木漏れ日の色はこんなにも色鮮やかだっただろうか。
泣き腫らした目に朝日が染みる。
何もかも失った、始まりの朝は清々しい。
また始めよう、そう思える朝だった。
#始まりはいつも