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5/4/2025, 4:03:32 PM

「あっついな〜」
「そ、そうね……」

真夏の会議室。クーラーが効いているとはいえ、差し込む日射しがここ最近一番の暑さであることを見せつけてくる。白を基調とした会議室は苦しい暑さを感じさせることは無いものの久々に会った長岡と2人っきりという状況に口数が増えることは無かった。

最近は忙しくてなかなか会ってなかったし……長岡も花火大会の準備で忙しかっただろうし……そもそもなんでこんな気まずくなってるの……
思考はグルグル回っても口に出ることはなかった。

「ま、今小千谷がアイス買いに行ってるから」
「え……まさか長岡、小千谷をパシリに……」
「ちげーよ!!じゃんけんで買ったんだよ!」

前のめりで否定するとムスッとした顔で椅子に寄りかかった。

「見附、あずき味のアイス好きだろ?とりあえずそれ頼んであるから別のが良かったら小千谷にLINEしてくれ」
「それもっと早く言いなさいよ……小千谷も困るでしょ……あずき好きだから、う、うれしいけど……」

最後はかなり小さい声になった自覚があった。長岡に聞こえたかは分からない。それが恥ずかしくなって更に下を向いた。
ちらっと見た長岡は何もなかったかのように服をパタパタしている。気づかなくて良かった……けどもっとこっちも見なさいよ……力が抜けてため息をついた時、ドアが開いた。

「ただいまぁ〜………あっち〜………」
「おかえり小千谷!おつかれ」
「本当に暑すぎるだろこれ……アイスも俺も溶けるって……」
「おかえり………」

長岡がドアに駆け寄り、袋を受け取る。ドアを開けただけで廊下の蒸し暑い空気が流れ込んで来たのだから、外は灼熱地獄も同然だろう……長岡市街はアーケードのおかげで日陰か多いから、それが救いだったかも知れない。

「ほい、見附。」
「ありがと……」
「それで良かったか?あずき味って結構いっぱいあってさ」
「うん。ありがとう」
「金太郎も美味いよな〜、いっつも桃太郎買っちゃうけど」
「もも太郎は定番だからな〜」

長岡と小千谷はそのまま2人で盛り上がっている。
やっぱり長岡は小千谷の方が好きなのかな。長岡は人に優劣をつけるやつじゃないって分かってるけど、それでも考えずにはいられない。

正直私の方が近いし、よく遊ぶし、交通や経済だって………
……でも、だからなのかもしれない。近すぎるのかも。私はもっと、こっちを見てほしいのに。合併協議があった頃もそう……もっとちゃんと『見附(わたし)』を見て欲しかった……だから、離脱した。

今も私と長岡の間には『市の境』という線がある。それでいい。同じになってしまったら、見えなくなってしまうから。
あいつの目は色んなところを見てる。中越の中心として、第2都市として。

私はこの線の向こうでずっと見てるから、だから、たまには私も見てね。