お祭り#69
キィ——
私に久々の来客だ。
「お祭りに行こうよ、早くしないと!」
そんなことを紗弥香は言った。
カーテンの締め切られた真っ暗な部屋に響いた好きな声。
私に対して言われたことではないように聞こえて身動きが取れずに固まったままで、手を引かれてやっと動き出せた。
まだ起き上がっていない頭で支度をして人の多い花火大会に来てしまった。
キラキラした夜を久しぶりに感じた。
お祭りというものは私にとってあまりいい思い出ではない。一年前、せっかくワンピースで待っていたのに、あの人は来なかった。既読もつかないままその日は終わった。
思い出したくなかった思い出まで思い出してしまった。
私って何も成長できてないのかな。
紗弥香には申し訳ないけどやっぱりまだお祭りとは仲良くできないかも。
また次来る時は笑顔でお祭りに来たいなと思ったり思わなかったりした。
七夕#68
「“突然の別れ”って突然お別れすることなんだって」
亜紀ちゃんは開口一番にそう言った。
私はどうぞ続けてと言い話の全貌を先に明らかにした。
話の全貌は、好きだけど別れたいと言われたってことらしい。私は意味がわからなすぎてずっとクエッションマークを頭に浮かべて話を聞いているフリをした。
だってわからないんだもん。なんで好きなのに別れなきゃいけないわけなの?
彼が言うには、あなたの理想の人は多分僕じゃない。
もっといい人がいるはずだから僕は身を引くということらしい。
やっぱり私にはわからない、どうして自分から離れるのか。
恋はよくわからない。
織姫と彦星は一年に一度しか会えないというのになんとも勝手な話だよ。
七月が始まって1週間。
お願い事なんていっぱいあるはずなのにいつも他人のことを願ってばかりだ。
どうか、亜紀ちゃんが幸せになれますように。
そんなことを七夕の夜に思った。
あなたがいたから#67
“いつも知らずのうちに近くに感じていることを実感しているありがとうね”
私は感謝のメッセージを送信した。
私はその日、過去を振り返ることをした。
私にとって過去はあまり振り返りたくないものなんだけどね。
そこでいつも支えてもらっているんだってことを実感して感謝を伝えたくなった。
今じゃ当たり前になった関係で当たり前に思えてることだからこそ、ふとした時に思う。
あなたがいたから、今の私はいるんだと。
家に帰っている途中でふと送りたくなって送ってしまったちょっと恥ずかしいけれどまっすぐに伝えたかったこと。伝えられてよかったな。
好き嫌い #66
私が普段から使用しているSNSからハートが非公開になった。好きのきもちは秘密にしようねということらしい。公開垢であるなら別に秘密にしなくてもいいんじゃないかと思うのは私だけなのか。私はもうついていけなくなってしまった。機能改善という改悪に。
もうそろそろ個人の独断だけで機能制限しなくたっていいじゃないんですか。
ハートいっぱい送らせて欲しいよ。だって好きだもん。
好き嫌いくらい選ぶ選択肢は個人に委ねようよ。
「ごめんね」#65
これはただの片思いの記憶。
声も忘れたあの人は今、私以外の人と幸せにしているんだろうな。
私はあの人の記憶の1ページに存在しているんだろうか、していたらいいな。
「ごめんね」って振られることなく私から身をひいた。
ちょっと後悔してたけど今となっては良かったのかもなって思えてるよ。