「もしもタイムマシーンがあったら、過去と未来、どっちに行きたい?」
暑い夏の日、無理やり有給休暇を取って地元に帰省していた俺の元に、幼稚園からの付き合いの幼馴染が遊びに来た。
「んなもんあるわけないだろ」
庭の縁側に腰掛けソーダ味の棒アイスを頬張りながら、俺は冷たくそう言った。
「お前は昔から夢がないな〜!」
そう言って隣に座る幼馴染。
こんなに暑い日だと言うのに、汗ひとつかかず日焼けもしていないこいつが少し羨ましいと思った。
「俺はね〜、絶対に未来かな!」
「未来ってどんな感じなのか気になる!少しでも夏休みの宿題が減ってると尚嬉しい……」
瞳を輝かせて、空想の話を楽しそうに語っている。
タイムマシーンなんて存在しないのにな。
「…そうか」
俺はまた、冷たく返してしまった。
こんな態度をとっても、この会話が終わる気配はしない
「なあ、強いて言うならどっちがいい?過去か、未来か。」
「…俺は、過去だな」
「高校2年の夏休みを、やり直したい」
「えぇ〜意外!」
「でもやっぱ、社会人になると学生時代が恋しくなるんだなぁ」
意外か。まぁ、お前はそう言うよな。
俺からすれば、過去以外の選択肢なんか存在しないのに
「…過去かぁ」
「……お前はさ、そろそろ未来を見て進んでもいいんじゃないか?」
先程まであんなにはしゃいでいた幼馴染は、急に声色を変えて真剣な面持ちで俺を見つめてくる。
「は?それって…」
「毎年さ、仕事で忙しいくせにお盆だけは必ず帰ってくるよな」
あぁ、ダメだ。もうこいつは知っていたんだ。
どうして俺だけが大人になったのか。どうして俺が過去に行きたいのか。
生まれてから高校2年生になるまで、俺達は何をするにも一緒だった。隠し事なんてすぐにバレてしまう。
「っ…!まて、待ってくれ…」
「毎年、会いに来てくれてありがとな。今度は俺が傍に居てやるよ」
そう言って立ち上がった▇▇は、唖然とする俺を抱き締めた。
俺が震える手で抱き返す前に、気づけば▇▇は消えていた
「…冷たかったな」
暑がりで子供体温だったはずの幼馴染は、すっかり冷えきっていた。
俺は幼馴染の両親に挨拶してから、買ってきた線香をあげた。
高校2年の夏休み、川に流され溺れていた子供を助けたあいつは
後から駆けつけた大人達に死体となって回収されて
暑い夏日だと言うのに、その体は酷く冷たくて、氷のようだった事を覚えている。
もしもタイムマシーンがあるなら
俺は過去に戻って、あの時怖くて動けなかった自分を叩いて
あいつの変わりに子供を助けに行きたい。
でも、そうだな
あいつはもうタイムマシーンには乗れないから
俺が変わりに、未来を見てきてやるのも
悪くは無いかもしれない