6/15/2025, 5:20:25 PM
【マグカップ】
『なんでも良いんだ。ひとつだけ、お揃いの物が欲しい。普段使いできる物で、誰にも見せる気はないから。』
勘繰られる事が嫌いな自分の事を想っての言葉だろう、と頭では理解できているのに…。
「…ぁ。」
カシャンと小気味よい音を立てて、色違いのマグカップの片割れが崩れ落ちた。
同じ形の色違いで買い揃えたそれは、最後まで妥協できなかった自分の事を嗤っているようだった。
「今までありがとう。」
選んだ自分に責任はあれど、選ばれたこのマグカップに罪はない。
そっと欠片たちを集めて包み、危険物の収集日まで保管する事にした。
「お世話になりました。」
〈ワレモノ〉と包みの外側に油性ペンで書いて、半透明なビニル袋に入れた。
「あの…。今度の休み、一緒に買い物行きませんか?」
今度こそ、お揃いのマグカップにしよう。
「うん、良いよ!何処に行こっか!」
楽しそうなあなたに、欲しい物を伝えると、大喜びでお店を選び始めた。
今度は、お揃いのマグカップが食器棚に並ぶのだ。
6/11/2025, 10:29:18 PM
【雨音に包まれて】
ぽつぽつ、ぱたぱた、ぱたたっ。
水音が外の平らな面に当たって音を立てる。
「降ってきたねぇ。中でゆっくりしよう。」
垂れ込めた曇天から落ちてくるのは、前線が連れてきた雨粒だ。
夏の匂いを内包しながら、まだ譲れないと季節が足踏みしている様な気がした。
纏わりつく湿気と翳った日から温もりを奪う、矛盾する体感に惑わされないように、空調の電源を入れた。
「温かい飲み物でも、淹れようか。」
ソファの上で体を丸めたまま、じっと窓越しの鈍色の空を見つめる頭を撫でる。
「ん。」
頭を撫でる手に頬を擦り寄せて、猫のように伸び上がってくる相手を抱き締める。
6/7/2025, 2:50:18 PM
夢見る少女のように