5/20/2024, 3:14:54 PM
題「理想のあなた」
マフラーに顔をうずめると、なんとも言えぬ匂いがした。少しの汗と、昨日の脂っぽいラーメン屋と、家を出る前にふりかけたジバンシイの匂い。
そろそろ洗わないとな。
寒さと臭(にお)いを天秤にかけて、寒さをとった。
ビル風の強さに少しマフラーを引き締めて、赤信号で立ち止まった。
自然と視線は近くのテナントに向かう。ガラスの向こうには、今シーズンの売り出し商品がディスプレイを飾っていた。冬に不釣り合いな短さのニットワンピを着たマネキンが、人生ですることも無いようなポーズをとっている。私が買うにはゼロが一つ多いトレンチコートに、人を刺せそうなブーツのマネキン。モコモコしたセーターと、スキニーなチノパンのマネキンは、何をいれるのかわからない小ささの鞄を肩にかけていた。
一様に、首がない彼女たちは通り過ぎる人々の憧れと欲を誘っている。
――例えば、サモトラケの“ニケ”に頭があったとして。両腕があったとして。
これほどまでに、人々を魅了しただろうか。
信号が青になる。
ショーウィンドウに映る、動き出した私には、余計な頭が一つついている。
5/20/2024, 7:13:07 AM
題 突然の別れ
「2124年までさようなら」