夜明け前
よるがあけるね
ささやき声にめをひらく
まだなにもみえない
それでも いいよ
まぶたに震えた
みずをふくませ滲んだひかり
あなたのこえは
よあけまえの潮音
だれもいない よあけにいきたいのに
本気の恋
恋ですらなかった
でも好きだった
それだけ
カレンダー
おばあちゃん家のカレンダーが好きだった
ふたつの膝小僧をながめながら、ふとそう思った。
ああ、むだ毛が生えている。剃らなきゃ。
いやいやそうじゃなくて。
おばあちゃん、元気かな
最後に会えたのは、いつだったか。お正月には会いたいけど、多分仕事だろうな。今年も無理かな。
嫌だなあ、なんでだろ。なんでだろって何がだろ。
子どもの頃に戻りたい。
おばあちゃん、優しくて、温かくて、料理の上手なおばあちゃん。
大好きなおばあちゃん。
あの頃だって近くに住んでたわけじゃなかったけど、お正月や、お盆の時期には毎年会えた。
お庭を自由に走り回って、畑の土の温かさを手のひらに感じて、夜には必ずおばあちゃんと一緒にお風呂に入った。
朝起きたら脱衣所のドアに掛けてある日めくりカレンダーを、一枚だけめくるのだ。
大したことじゃないのに、おばあちゃんは絶対に褒めてくれた。
ありがとうねぇ、気がきくねぇ
それが照れくさくて嬉しくて、明日もめくるから帰らない、なんてわがままを言っては両親を困らせた。
あしたは、なにがあるのかな
たのしいことがあるのだ、うたがいなどしない
あの頃にかえりたい
カレンダーをめくりたい。
喪失感
何かはっきりとしたもの失ったわけではなく
なにか変わったことがあったわけでもなく
けれど
いつからか 自分が自分で無くなった ような
落ち着かなさが
それを支配するようになりました
さみしくて さみしくて さみしかったから
軈て だれかが もっていって しまったのだ と
想うことにしました
きえてしまったのでは
いしころになってしまったのでは
あまりに あまりに あまりにも
くるしいことにおもえた