蝶を捕まえるのが好きだった
小指の先くらいの蝶 雑草にとまるのを待って
そっと羽をつまむ
薄っぺらなそれは 生温かくて気持ち悪い命の感触
私はいつも数秒と掴んでいられない
ぱっ ふらふら すーっ ひらり ひらり…
自由に飛び回る美しいもの
苦労して捕まえたのよ
残るのは白くて ちょっと黒い よごれ
ねえ聞いて 鱗粉がなくなると飛べなくなるんだって
生涯 サナギの時に纏った分だけ
ずーっと、それだけ…
私本当はわかっていたような気がするわ
この手で捕まえたら 傷つけるってこと
自由に飛び回る美しいもの
まっすぐに伸ばした手で目一杯の傷をつけた
その先なんて何にもなかった
まっすぐな手 最低な手
あの日の蝶も 死んだのかしら
いいえ いいえ、違うのよ
わからないわ でもきっと きっと きっと…
ぱっ ふらふら すーっ ひらり ひらり ひらり…
「ひらり」
年末。雪見障子の桟の影、縁側に並ぶ緑。底に粉が残る緑茶とズシリと重たいお布団。そこかしこから田舎のにおい。わだかまりはそのままに、お日さまの温みに溶け出すように、とろりと眠る12時半。
手土産の芋羊羹をつつきながら、ちょっと入り難いこたつに足を伸ばす。
女の子はお家のことができんと困るんだで…おばあちゃん今は時代が変わったんよ……そうかいねえ…あと私はお家のことできるからね…嘘だがなぁ…なあに根拠に嘘なんて言うん?もぉ……
毎年変わらないこのやりとりに、めんどくささすら消え失せて、パターンとして受け入れるようになった。いつのまにか平坦になった自分も、相変わらず昔を生きる祖母も、今はなんだか愛せるのだ。
年始。もう1人の祖母に会いに行く。コーヒーの匂いが染みついたポット、ペットボトルカバーにしまわれたリモコン。牛乳パックの口を挟むクリップ、白黒小さな犬たちのしっぽ。朝日の近づく紺の空、だらりと喋ればもう4時半。
昼のワイドショーと夕方の刑事ドラマは少しざわつく。今日は特番だらけで、面白くもないんだけど、それでいい。それがいい。
大小ばらついたみかんを軽く握って、やわこいものから剥いて食べる。昔は避けてたピーナッツが、今やメインの柿ピー。何も強制されず、無為に過ごせたこの部屋に、なんども救われたこと。
年々小さくなる祖母たちの肩が、寂しくて寂しくて
ずっとずっと、愛おしい。
また、近いうちに会いに行くね。
「新年」